私はこれまでに、数多くのCFO（最高経理・財務責任者）をはじめとする、企業の経理・財務部門の責任者の方にお会いし、話をうかがってきた。それぞれの企業理念を体現した経理・財務のあり方はもちろんのこと、その人間性から紡ぎ出される言葉の数々に、感銘を覚えることも多かった。

世界的な経済危機のなか、たくさんの企業が厳しい経営を余儀なくされている。「自由10：自己規律0」の金融ゲームが生んだ経済危機に対する最良の処方箋が、「自由9：自己規律1」の“日本の経理・財務”であるというのが、私の持論である（拙著『自由と自己規律』・税務経理協会）。そういう意味でも、特色ある日本企業のCFOの言葉に耳を傾けることは、非常に意義深い。企業会計に携わる人たちにとっても、参考になることが多いはずだ。そこで今回から、そうした経理・財務責任者の中から、印象に残った方を取り上げさせていただく。

第１回にご登場願うのは、パナソニック経理大学学長（前パナソニック副社長CFO）の川上徹也氏。川上氏に関しては、おそらくは会う人すべてを虜にしてしまうであろうその人柄について、まず触れなければならない。月並みな言い方だが、とにかく「いい人」なのである。他人を思いやり、人間を大事にする人であることが、話をすればすぐわかる。

そうした思いやりの気持ちは、当然のことながら自分の会社の人間たちにも向いていた。川上氏は言う。「会社に入って誰に会ってどういう育てられ方をしたのかが、その人の人生を左右します。特に幹部クラスの人にはそういう思いを持ってほしい。私は後輩、部下を職場のパートナーと考えています」。

経理というのは、どちらかといえば地味で、ある意味報われない仕事である。経理マンが、例えば「銀行と会って話ができるのは俺だけだ」などと威張り始めたら、その会社は危ない。川上氏が率いていた経理は、その対極にあったのだと想像する。

余談ながら、川上氏はサン＝テグジュペリの『星の王子さま』の大ファンだ。同じ「趣味」を持っていたことは、私にとって幸運なことだった。初めて大阪・門真の本社にお訪ねした時、そうとは知らずに、『月刊WEDGE』という雑誌に『星の王子さま』について私が書いたことを、たまたまお話しした。大学のフランス語のテキストでその名作に出合って以来、もう100回以上読み返しているのだ、と。すると彼は、あたかも10年の知己のごとく私の手を握り、「実は私もなんです」と、満面の笑みを浮かべたのである。聞けば、ファンタジーな小説など似合わないと、学生時代から、ずっとからかわれてきたそう。私が熱心なファンだと知って、とても喜ばれた。