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「変革の時代だからこそ、監査人としての気概、泥臭さみたいなものは、改めて重要だと思う」
公認会計士浜田康事務所
浜田 康
会計士の肖像
有限責任あずさ監査法人
理事長内山 英世
入社以来30年の時を経て、昨年2010年6月、内山英世はあずさ監査法人の理事長に就任。同時に、KPMGジャパンのチェアマン兼CEOという要職にも就き、その日々は想像以上にハードだ。世界各国で開かれるボードミーティングに出席するため、ほぼ毎月海外に赴く生活に、「前より忙しくなった。体にこたえるよね」と率直な弁。そんな言葉も所作も飾らない内山の人望は厚い。皮相を嫌い、いつも正面を見据えながら生きてきた様は、この時代、ひとつの大きな指針となる。
父が藤沢市で洋服店を営んでいたので、様々な下請けさんや職人さんが出入りする光景を見ながら育ちました。注文紳士服で、オーダーが入ると作業工程ごとに下請けさんに仕事を出して、最後に縫製して納品をするわけです。
「駕籠(かご)に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋(わらじ)を作る人」って言葉があるでしょ。まさにそれで、世の中には様々な職業があって、各々が持ち場で精一杯役割を果たす。そうやって社会が成り立っているという感覚は、幼い頃からありました。人間は働くのが当たり前、それが一番の価値であることを肌で学んだのでしょう。僕が専門性ある職業を選んだのは、そんな影響を受けてのことかもしれません。
多少ませていたのか、とにかく夢中になって本を読んでいました。なぜそうなったか考えてみると、僕は早生まれでね。子供の頃って、1年違うと同級生でも体格が全然違うでしょう。小学生のうちは、体力を使うスポーツではどうしても勝てなくて、いつも悔しい思いをしていた。何か、勝てるものはないかと。人より優れているところがないと、自分に自信って持てないじゃないですか。勢い、本に関心を持つようになったんだと思います。
聞けば、子供には難解な書ばかり。「努力しても限界のある体力と違って、本ならいくらでも読める」と、かなりの読書量である。小学校4年生で、山岡荘八の歴史小説『徳川家康』全26巻を読破したのをはじめ、日本や世界の文学全集を片っ端から読んだ。幼い頃から探究心の強かった内山を示す、こんなエピソードがある。
小学校2年の正月にね、もらったお年玉100円札3枚を握りしめて、本屋に走ったんです。買ったのは『日本軍歌集』。もちろん、特別な思想信条があったわけじゃないですよ(笑)。この頃はまだ、周りに復員した人がいっぱいいて、軍歌を耳にする機会が多かったんです。僕は、その歌詞の意味を知りたかった。難しい漢字を一つ一つ漢和辞典で調べながら、読みましたねぇ。軍歌って、例えば佐佐木信綱とか与謝野鉄幹とか、日本を代表する歌人が詞を書いていて、そこには美しくてしっかりした日本語がある。僕の国語教育の根幹ですよ。明治・大正のインテリジェンスを持った方たちの歌詞を通じて、大人の世界を覗くという子供なりの知恵だったんでしょう。だいぶ変わっていたのかな(笑)。でも、成績が良かった記憶はあまりないんですよ。よくいたずらしたし、自分の興味・関心事にすぐ夢中になるから勝手なこともする。だから、学校ではけっこう立たされていました。
中学に上がってからは、英語が好きだったこともあって、海外志向が強くなってきました。NHKの海外特派員とか、ああいう職業に憧れてね。当時、海外に出るには貨物船に乗って行くぐらいの感覚でしたけど、それだけに憧憬が強かった。そんな時代ですよ。
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有限責任あずさ監査法人理事長内山 英世
公認会計士第三次試験(旧)の試験委員
青山学院大学国際マネジメント学科講師(非常勤)
政府各省庁委員会(財務、農水、総務、林野、経産)の委員などを歴任