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Accountant's magazine vol.18

-アカウンタンツマガジン-
2013年06月01日発行

会計士の肖像

「他人の利益を第一に考えれば、おのずから自分の利益にもつながってくる――「自利利他」の経済を、我々が牽引すべきである」

谷公認会計士事務所
代表 僧職会計士谷 慈義

会計士の肖像

商い、勉学、スポーツ。少年の頃から何事にもパワー全開

「明治大学大学院特別招聘教授」「浄土宗僧侶」「公認会計士」。現在の谷慈義(たに・しげよし)の名刺には、この3つの肩書が並ぶ。何とも珍しい……と思っているところに、谷は「僧職会計士なんて、僕ぐらいでしょう」と、人懐っこい笑顔を見せる。仏道に精進するようになったのは還暦を過ぎてからだが、会計士としての谷は、40年にわたり、事業再建の現場を踏んできたプロフェッショナルだ。経営難にあえぐ企業約50社をV字回復させたその手腕は、“谷マジック”と称される。貫いてきたのは「心の経営」。顧客、社員、株主、取引先といった、企業を取り巻くステークホルダーと一体になり、常に「経営のあるべき姿」を追求してきた。ビジネス界で培った数多の経験と、学び実践しつつある仏教の教えを融合させ、谷は、今日も精力的に“救済の道”を走り続けている。

僕は、父親の顔を写真でしか知らないんです。生まれる2カ月前、東京大空襲で戦災死したのですが、聞いた話では、町会長をしていた親父は、空襲の下、地元の人たちを避難させている途中で死んだそうです。終戦後の大変な時代でしょ。親父を亡くして経済的基盤もないなか、タバコ店と洋品店を切り盛りしながら、僕らきょうだいを一人で育て上げたお袋はすごいですよ。幼いうちから店を手伝うのが日課で、店を開ける前には向こう三軒両隣、毎日竹ぼうきで掃除。それから雑巾がけをし、商品を整える。小学生になった頃には、近所の問屋街を自転車で走り回っていました。7歳にして「仕入れ部長」、これが最初の肩書(笑)。ずっと商売に触れてきたことが、僕の“実務家”としての原点ですね。

明治生まれのお袋は厳しい人で、ピシッと筋が通っているというか……。「人にできないことはない」というのが根本の考え方で、できないのは「やらないから」。そして、「すべて一番になりなさい」と。だから僕は、何でも懸命に取り組んできました。勉強はもちろん野球、柔道、珠算、そしてベーゴマも(笑)。いわゆるガキ大将です。今思えば、人と一番を争うことは、実は相手に執(とら)われない“空”の自分を確立する方便なんですよね。ただ、苦労しているお袋を見て育ったおかげで、人間、やれば何でもできるという感覚が身についたことは、人生において、間違いなくプラスになっています。

学業に長けた谷は、後に弁護士となる兄が学んだ明治大学付属明治中学校を受験し、次いで同高校へと順当に進学する。中・高時代は一貫してトップクラスの成績を維持しつつ、生徒会やクラブ活動にも精を出す“忙しい”学生生活。やるとなったら即行動に移す、そして、新たな発見を好む谷のバイタリティは、この頃から発揮されていた。

酉年だからなのか、つっつき探しをするんですよ。鳥がくちばしをツンツンしながら、エサを探すあれ。要するに落ち着きがなくて、何にでも手を出しちゃう(笑)。

中学では「商業研究会」に入って、複式簿記を初めて学術的に説明したイタリアの数学者、ルカ・パチョーリのことを勉強し、一方では生徒会本部で会計を担当していました。校内のいろんなクラブを取りまとめて予算を組むとか、学校と交渉するとか。特段、数字に強かったわけではないんだけど、図らずも、会計らしきことをやっていたんですね。あとは、軟式テニス部。変わらず店の手伝いもしていたから、とにかく忙しくて。洋服や学業道具は兄貴のお下がりばっかりだったけれど、何でも好きにやらせてくれたお袋には、本当に感謝しています。

高校に上ってからは、マンドリンクラブでキャプテンを務めていました。きれいな音色に惹かれて始めたんですけど、マンドリンの演奏は、今も休日の楽しみのひとつ。音楽には言葉が必要ないから、なんびとでも共有できる。それが魅力だし、実は、会社経営と共通点が多いのです。基本は人々のハーモニーで、一人だけ巧くても体を成さない。そして、指揮者が情熱を持って指揮しないと、演奏者や観客はついてきません。それを「社長」に置き換えても、同じことが言えるわけです。合奏を通じて体得したことは、今の仕事にずいぶん生きているように思います。

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Profile

谷公認会計士事務所 代表 僧職会計士 谷 慈義

谷公認会計士事務所代表 僧職会計士谷 慈義

1945年5月9日
東京都生まれ
1968年3月
明治大学商学部商学科卒業
1973年9月
公認会計士第二次試験合格
ピート・マーウィック・ミッチェル会計士事務所(現KPMG)入所
1977年4月
公認会計士登録
監査法人朝日会計社
(現有限責任あずさ監査法人)入所
1980年4月
谷公認会計士事務所設立
藤田公認会計士事務所
(現東陽監査法人)入所
経営再建事業に着手
1994年9月
東陽監査法人代表社員に就任
大手商社・大手都市銀行の取引先の経営再建に着手
1998年9月
株式会社バルス非常勤監査役に就任
2004年6月
ユアサ商事株式会社代表取締役社長に就任
日本経済団体連合会(経団連)評議員に就任
2007年6月
ユアサ商事株式会社取締役会長に就任
2008年6月
ユアサ商事株式会社最高顧問に就任
2009年4月
明治大学経営学部特別招聘教授に就任
2011年3月
大正大学大学院仏教学研究科終了、
浄土門主賞受賞
2011年4月
明治大学会計専門職大学院
特別招聘教授に就任
2012年4月
浄土宗(総本山京都知恩院)
僧侶(少僧都)叙任

[主な役職]
明治大学校友会本部監査委員、
連合駿台会副会長、
公認会計士会副会長、
商学部三上会会長など。

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