
駒澤大学経営学部 教授
博士(プロフェッショナル会計学)田中 智徳
企業の会計不正が頻発している昨今、あらためて公認会計士による会計監査における“指導性”の持つ本来の意味が問い直されているように思う。今回は、この点について、時代の流れを踏まえながら考えてみたい。
監査人の機能には、「批判的機能」と「指導的機能」がある。批判的機能は、企業の作成した財務諸表などに不備や誤りがないかをチェックし、必要な指摘を行う、という監査の本源的機能だ。
一方、適切な会計処理や財務諸表の作成ができるよう助言・勧告を行うのが、指導的機能である。いずれも、財務諸表を作成する責任は企業側にあり、会計士にはそれを監査する責任がある、という「二重責任の原則」を前提に機能する。
これらは、伝統的な概念として定着しているが、実は指導的機能に類するものは、他国にはあまり例がない。これには、日本の会計監査制度が、戦後GHQによって導入された、という“出自”が関連している。経済復興のためには、それまでなかった企業会計原則というルールに従って、企業が会計報告を行う仕組みをつくる必要があった。それを動かす公認会計士の制度も監査基準も、アメリカのものに倣って急ぎ整備されていったのである。
戸惑ったのは、企業の側だ。外部の人間が入ってきて会計を調べるという未知の制度に対しては、抵抗感も強かっただろう。そこで会計士は、批判性という本源的機能とともに、企業側に制度の意味を理解してもらい、正しい会計報告に導く使命をも担うことになった。
しかし、時代は移り、この指導的機能が問題視されるようになる。インパクトが大きかったのは、2005年に発覚したカネボウ粉飾決算事件だ。会計士が粉飾を“指南”した、という報道により、監査人が企業に助言することへの疑問の声が高まった。代わりに強調されるようになったのは、監査の“独立性”である。会計士による指導性発揮のハードルは、ますます上がっているのが現状といえるだろう。
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駒澤大学経営学部 教授博士(プロフェッショナル会計学)田中 智徳
青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科博士後期課程修了。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。中部大学経営情報学部を経て、2022年4月、駒澤大学経営学部准教授。26年4月、教授。現在、日本監査研究学会理事、日本ガバナンス研究学会理事、財務省財務専門官・一般基礎研修講師、財務省国際財務理論研修講師、一般社団法人日本内部監査協会内部監査基準改訂委員会委員。
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