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「変革の時代だからこそ、監査人としての気概、泥臭さみたいなものは、改めて重要だと思う」
公認会計士浜田康事務所
浜田 康
会計士の肖像
監査法人アヴァンティア
法人代表CEO/マネージング・パートナー小笠原 直
2008年に監査法人アヴァンティアを設立した小笠原直の経歴で、ひときわ目を引くのが、「第一勧業銀行(現みずほ銀行)大手町支店配属」の記載だ。メガバンクの、しかも名立たる大企業が集積する“要衝”で頭角を現しつつあった若き銀行員はしかし、3年で同行を辞すことになる。新天地に選んだのは、当時数十人規模だった監査法人。独立して立ち上げた法人も、“適正規模”のコンセプトを貫く。そこには、小笠原の譲れぬ理念、そして理に適う戦略があった。
生まれは山形の米沢です。でも、父親が新聞の社会部の記者だったために、その転勤に合わせて小2で栃木の日光、中2で宇都宮と、引っ越しを繰り返しました。ちょうど友達ができた頃に転校というのは、きつかった。最低限いじめに遭わないよう、子供心にサバイバル術を探しているようなところがありましたね。野球から、剣道、卓球とスポーツも割と得意だったのですが、中学の時にはひたすら勉強して、模試で全県2位になったこともあります。
進学した県立宇都宮高校は、ものすごくバンカラな男子校です。男は「モテたい」というのがモチベーションになったりするじゃないですか。つくづく異性がいない環境だと力が出ないものなんだ、と思い知らされました(笑)。
ゆえに、あまりやる気の出ない高校生活を送っていたのですが、人間、何が転機になるかわかりません。高2の夏休み前頃、テレビで見たサッカーワールドカップ・スペイン大会(1982年)が僕を変えた。この大会では、大方の予想を覆し、イタリアがジーコのいたブラジルや当時の西ドイツを破って優勝。それもすごかったけれど、なんといっても映像を通して伝わってくる会場の熱気、熱狂ぶりに痺れました。そして、自分もこういう世界に近づきたい、こんな大イベントをマネジメントできたらいいな、という思いが込み上げてきて。そのためには英語や世界史を真剣に学ぶ必要があるんじゃないか、と。気づいたらすっかり“勉強モード”になっていたわけです。この時期ほど、したいと思って勉強した日々はなかったですね。その甲斐あって、一橋大学経済学部に現役合格することができました。
ただし、合格してみると、そこも“ほぼ男子校”の世界だった。辛い受験勉強の反動もあり、再び心のタガは緩む。ほとんどキャンパスに行くこともなく、部屋で好きな音楽を聴いたり、居酒屋の店員や塾講師などのバイトに精を出したり。その稼ぎは、当時流行していたディスコで遊ぶために六本木まで通い、そこに着ていく服を購入すると、あらかた消えていた。
気の合う仲間たちと、テニス&温泉サークルなんていうのもつくりました。戦術を練ってアプローチして、女子大の学生を大勢メンバーにしたり。大学も、最初の2年間は本当に楽しかった。でも、3年になりゼミを選択する段になると、そろそろ進む方向性を決めなくてはなりません。といわれても、なんとなく普通の会社に就職するというのはピンとこない。そんな時、商学部生だったサークルのメンバーの一人が、「俺は会計のゼミに入って公認会計士を目指す。一緒にやらないか」と声をかけてくれたのです。
そこで、はっと思い出したのは、高校時代に旺文社の『スペシャリストへの道』というガイド本を読んで、医師や弁護士とともに、公認会計士のページにも、しっかり折り目を付けていたこと。もう一つ、大学1年秋に不慮の死を遂げた親友の言葉も蘇りました。優秀だった彼は、すでにその時点で会計士を目指していて、何もなければ在学中に合格したでしょう。死の1週間前、借りていた授業のノートを返しに行った僕に、彼は「なあ小笠原、お前もうちょっと勉強したほうがいいよ」とポツリと言ったのです。まったくそのとおりで、“近代経済学のメッカ”で学びたい、とそれなりの努力を払って入学したのに、僕は2年間、何もしていなかった。まあ、いろんなことは始めてから考えればいいだろうと割り切って、学部を超えて商学部の会計ゼミに入ることに決めました。
しかし、決意だけで順調に事が進むほど、世の中は甘くない。専門学校にも通って資格試験突破を目指したわけですが、初回の簿記の模試で、なんと167人中166位という惨敗。致命的ですよね、会計士を目指す人間としては。親に頼んで授業料を出してもらったのに、模試はほぼビリ。この現実に直面して考えたのは、すぐ本丸に攻め入るのではなく、まずは外堀を埋めることでした。比較的得意な経済学や経営学、商法などを固めて、まずは乱れた心を鎮めよう、と(笑)。戦術は当たり、なんとなく勉強の要領も掴んで、徐々に本丸でも戦えるようになりました。1年留年しましたが、1988年10月、めでたく公認会計士第二次試験に合格することができたのです。いちおう名誉のためにも申し上げると、「財務諸表論」は全答練でトップでした。
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監査法人アヴァンティア法人代表CEO/マネージング・パートナー小笠原 直
◎その他の現職
・ (独)大学改革支援・学位授与機構監事
・ 東プレ株式会社社外取締役
・ 都築電気株式会社社外監査役
・ 一橋大学大学院経営管理研究科非常勤講師
※日本公認会計士協会実務補習所副委員長、
慶應義塾大学環境情報学部准教授(特別招聘)、千葉大学法経学部(現法政経学部)非常勤講師なども歴任