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「"AGS"と"HLS"が手を結び、新たな企業ブランドを設立。グローバルネットワークで、日本経済の発展に貢献する」
Hotta Liesenberg Saito LLP マネージング・パートナー 米国公認会計士 齋藤 俊輔
株式会社AGSコンサルティング 代表取締役社長 公認会計士・税理士 廣渡 嘉秀
特別対談企画
日本CFO協会専務理事・事務局長
株式会社CFO本部 代表取締役社長谷口 宏
経済・金融・経営評論家/日本CFO協会 最高顧問前金融監督庁(現金融庁)顧問金児 昭
昨年の5月26日、日本経済新聞に「新日本監査法人、会計士100人企業に出向、経営現場で修行」という記事が掲載された。
この取り組みの仕掛け人が、本誌にてコラムを執筆中の金児昭氏と日本CFO協会事務局長の谷口宏氏である。
会計士業界内では「リストラの一環か?」という憶測が流れたが、「それはまったくの誤解だ」とふたりは断言する。その真意と、目指すべき成果を聞いた。
谷口さん、あらためて今回の研修出向制度導入のきっかけを話していただけませんか。
谷口リーマンショック以降、監査法人に所属しながら、「仕事がない」会計士が急増しました。他方、上場企業の側には、2015年にも導入されるといわれるIFRSへの対応を急ぐ動きが具体化。しかし、外部のコンサルタントに頼むと高くつくし、さりとて社内の陣容では心もとない。「人余り」の監査法人と会計のプロがほしい企業をうまくつなぐことができれば、双方にとってメリットがあるのではという単純な発想がスタートでした。
金児そもそも、会計士が事業会社で仕事をすることが当たり前の欧米に対し、「会計監査」の枠に閉じこもっている日本の状況は異常です。客観的に見て、企業が会計士を欲している今は、それに風穴を開ける絶好のチャンスでもあった、と思います。
谷口はい、そうですね。それで、まずいくつかの企業のCFOに、率直な意見を聞いてみたのです。返ってきたのは「会計士はほしい。でも、仕事にあぶれている人間はいらない」というものでした。企業が求めているのは会計士の資格や看板ではなく、「勘定科目をすべて理解しているくらいの人材」であることがわかりました。
金児そう、重要なポイントですね。監査に来ながら会社の実態をまるで知らず、企業が監査報酬を払って研修させるような会計士では困るのです。
谷口企業のニーズを把握したのち、派遣の可能性をビッグ4の一つである新日本監査法人さんに打診してみました。受け入れると言っているのが三菱商事さん、花王さん、武田薬品さんといった錚々たる企業であることを話し、あくまでも優秀な人材を求めているのだと。すると、「そんな企業が受け入れてくれるのなら、エース級の人材を出そう」という話にすぐになったのです。監査法人の側にも、企業活動の実態を知る会計士がなかなか育たないというジレンマがありました。
金児こうした経緯をみれば、今回の取り組みが決して監査法人のリストラを動機にしたものなどではないことが、明白でしょう。出向の中身ですが、期間は3年になっていますね。
谷口とりあえずそれでスタートさせてみようということです。1年目で仕事を覚え、2年目で自分のものにし、3年目で力を発揮する――といったイメージです。新日本さんは昨年40名、2年目、3年目に関しては30名ずつを出向させる計画です。3年たったら、初年度に出向した人間は戻ってきて、代わりに新しいメンバーを送る。目論見どおりなら、常時100名ぐらいが「武者修行」に出ながら、法人内には企業の何たるかを学んだ人材が蓄積されていくことになります。
金児本人が希望すれば、出向期間終了後もそのまま企業に残れるのですね。
谷口そこを監査法人側が”割り切った”ことも、制度をスピーディーに始められた要因です。せっかく出向するのだから、それくらいの気持ちで頑張って、研修の効果を上げてほしいということですね。
金児新日本さんの成果を見て、監査法人トーマツさん、あずさ監査法人さんも、企業への出向を始めましたね。
谷口トーマツさんは昨秋7名、あずささんはこの3月から5名を送っています。「形を変えたリストラでは?」という不安が会計士の側にあるようなので、そうではないことをまず見せるため、あえて出向者を厳選して少人数からスタートさせるなどの工夫もしています。「優秀な人間が一流企業で自己成長を目指す」仕組みであることを事実をもって示すわけです。
金児現在、合わせて60名ほどが出向していることになりますが、どんな仕事を任されているのでしょう?
谷口7割がIFRS関連ですね。あとは連結決算の部隊だったり、企業グループの経理規程見直しだったり。やはりIFRSが、今回の出向制度導入のトリガーになっています。
金児出向者の感想はいかがですか?
谷口「こんな経験ができるのは、現場に入ってこそだ」と、みんなやる気満々で頑張っています。出向期間中にCFO協会で企画した研修を受けている会計士も大勢いますが、例えばIFRSの部隊に入った人間からは、「もっとIFRSのED(公開草案)について詳しく議論する場がほしい」なんてリクエストされたり。出向先の企業に貢献したいという意欲がひしひしと伝わってきます。会計士を単純に「労働力」ととらえる企業には、基本的に出向をお断りしているのですが、受け入れ先がそうした意図をきちんと理解してくれたのも嬉しかったですね。財務会計分野だけでなく、工場などで管理会計的な分野、金児さんの言葉を借りれば「経営会計」を学ぶ機会を考えてくれている会社もあります。
金児谷口さんのおかげで、順調にスタートを切ることができましたが、この仕組みを継続させていくことが次の課題ですね。
谷口「監査法人が送り出したい会計士」と「会計士を受け入れたい企業」の需給バランスが今後どうなるかなど、未知の部分はたくさんありますが、双方にとって魅力、メリットのある制度に磨き上げていくことが大事です。当面は、現場の成功事例の発信に力を入れていきたいと考えています。
金児本制度の導入で、最初に申し上げた、日本の会計士の方々が置かれた「異常な」状態が、一気に克服されるとは思いません。しかし、戦後60年で初めて記された、大きな、大きな一歩であることは確かです。まずは会計士の方々自身が、そのことをしっかり認識し、積極的にこの制度を活用されることを祈りたいと思います。
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日本CFO協会 専務理事・事務局長 株式会社CFO本部 代表取締役社長 谷口 宏
1989年、東京大学経済学部卒業。住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、人事・採用・教育の企画運営、企業金融分野を担当。2000年、日本CFO協会を創設、専務理事に就任。国際財務幹部協会連盟(IAFEI)会長。
経済・金融・経営評論家/日本CFO協会 最高顧問 前金融監督庁(現金融庁)顧問 金児 昭
1936年生まれ。東京大学農学部卒業後、信越化学工業に入社。以来38年間、経理・財務部門の実務一筋。前金融監督庁(現金融庁)顧問や公認会計士試験委員などを歴任。現・日本CFO(経理・財務責任者)協会最高顧問。著書は2010年1月現在で、共著・編著・監修を含めて123冊。社交ダンス教師の資格も持つ。