会計士の肖像
GCAサヴィアングループ株式会社
代表取締役CEO渡辺 章博
M&A先進国である米国で、初めて案件を手掛けたのは1985年のこと。以来25年にわたり、渡辺章博はM&Aアドバイザリーの第一人者として走り続けてきた。扱った案件数は優に3000を超え、国内外のM&A市場を牽引してきた人物である。浮沈を経て、功を積みながら行き着いた先は「For Client's Best Interest」。マネーゲームではない、クライアントの最善の利益を追求する本物のM&Aだ。どの資本系列にも属さないGCAサヴィアングループは、そんな渡辺の信念がつくり上げた、ひとつの新しいかたち。今や同社は、独立系上場M&Aファームとして、世界トップ5に入る規模にある。その長である渡辺は、百戦錬磨の強者ながら、インタビュー冒頭から「先生と呼ばなくていいですから」と、実に人懐っこい笑顔を見せる。
幼い頃、僕はずっと九州出身だと思い込んでいたんですよ。八幡製鐵に勤めていた父の仕事の都合で、2歳から小学校2年まで北九州市で育ったので。東京に戻ってから生まれが吉祥寺だと知って、「ええっ?なんか東京出身って特徴なくてカッコ良くないなぁ」と思ったものです(笑)。
父は猛烈な仕事人間で毎晩帰りが遅く、あまり家にいませんでした。それで母も寂しかったのか、キリスト教会の活動に打ち込んでいて、僕は一人で家にいることが多く、本ばかり読んでいました。好きだったのは偉人伝です。ジョン・F・ケネディ、西郷隆盛や野口英世……気に入った本は何度も読み返していましたね。僕はアタマの出来は大したことないんだけど、子供の頃から非常に感度が高くて、それは読書が養ってくれたのかもしれません。
その感度で、何となく父の雰囲気が変わったなぁと思ったのは、八幡製鐵が富士製鐵と合併して新日本製鐵になった時。僕は11歳でした。言うなれば、これがマイ・ファースト・M&A(笑)。直観的に感じたのは“不安定さ”です。当時は「鉄は国家なり」の勢いでしたが、僕は子供心にそれが永遠ではなく、インフラが進めばいずれ鉄の需要は減るとも思っていました。どんなに大きくても、乗っかっている土台が変化すれば、働く人間も左右されるということに不安定さを覚えたのでしょう。マセてますよね。
読書家の渡辺だが、一方でスポーツも大好きで、中学・高校時代に一貫して続けたのは柔道。「太っていたから、走ればいつもビリっけつ。体を生かせるのは柔道」が動機だ。渡辺は「力をつける」という言葉を幾度となく口にするが、聞けば、この柔道部で経験した出来事が原点になっている。
柔道部に入ったものの、中高共にとにかく弱小クラブで。そもそも当時は、格闘技系は人気なかったんですよ。弱いわ汗くさいわで、部員は少ないし、そうなると部費もつきません。高校でキャプテンになり、その悪循環を断ち切ろうと思って考えた策は、女子部員を入れるという“成長戦略”。僕は口八丁だから、「護身術を覚えない?」とか言って勧誘したんです。で、女子4人が入部してくれました。すると男子も活気づいて部員がどんどん増えて、してやったりですよ。ところが、僕はすぐに調子に乗るんで、勢いに任せて寝技まで教えたら、女子は全員退部しちゃった。
ある日、体育館に行くと部員が誰もいないんですよ。普段なら、下級生が練習準備をしているのに、女子がいなくなるとゲンキンな話です。仕方なく、僕は一人で受け身を練習し、黙想したのです。その時、自分の胸に刻みました。うわべより中身が大事だと。真の力がなければ人はついてこないということを。性分的に、人に貢献して「すごいね、よくやったね」と感謝されるのが心地良かったし、多読した偉人伝の影響で、リーダーになりたいという思いもあった。そんな僕にとって、この経験から学んだことは人生の原理原則になりました。今も、経営スタイルの基本はここにあります。プロフェッショナル・ファームの世界では、力を磨き続けないと誰もついてこないし、顧客のために価値創造もできません。
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GCAサヴィアングループ株式会社代表取締役CEO渡辺 章博
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