熱き会計人の転機
認定NPO法人フローレンス
ディレクターCFO 公認会計士横山 正宏
公認会計士を志したきっかけを教えてください。
横山大学在学中に何か一つ、やり遂げたいと思っていました。たまたま簿記講座を受講したところ、講座を担当していた先生が会計士。話を聞くと「これはやりがいがありそうだ」と。結構成り行きですね(笑)。当時は社会貢献にも特に関心はありませんでした。
トーマツには4年間在籍し、主に国内上場企業の監査に従事。3年目以降は内部統制のコンサルにもかかわりました。ただ1年働いてみて、自分が進みたい方向ではないのでは?と疑問を持ちました。困っている人を助けている実感、社会をよくしている手応えが感じられなかったというか。それで社外の活動に目を向け始めたんです。
転機は「二枚目の名刺」というNPOのイベントです。NPOの代表のプレゼンを聞いたら、これがメッチャ熱い。数カ月後、PwCからTeach for JapanというNPOに出向していた会計士の方とお話しする機会を得ました。ソーシャルセクターにかかわる会計士が少ないなかで、じっさい会計士がNPOでどんな活躍ができるのか、社会にどんな価値を提供できるのか、話を聞くうち「自分もその人のようにNPOにかかわりたい」と考え始めたのです。
なぜNPOがそこまで自分に響いたかというと……会計士試験の勉強中に、精神的に落ち込んだことがあります。震災もあって、「何のためにここまで頑張ってきたんだろう」と悩んでしまった。でも、ある整体師さんに出会ったおかげで回復できたんです。「困っている人を助けたい」という思いを持つに至った原体験かもしれません。
そこから監査法人とNPOの〝2足のわらじ〞ですね。
横山社会課題の解決を目指す会計士の集まりAccountability for Changeという団体の立ち上げに参画した後、メンバーの紹介でLiving in Peaceという子供の貧困削減を目指すNPOに、会計担当として参画しました。
監査法人の同僚には「横山が変なこと始めたな」と思われていたと思います(笑)。Accountability for Changeのメンバーのなかには、所属する監査法人に内緒でプロボノをしている人もいました。僕は中途半端なことはしたくなかったので兼業申請を出しましたが、無報酬で監査法人と利益相反関係がなければ問題はないとのことでした。
プロボノ活動は本業にもいい影響を与えてくれました。監査法人は企業がつくった数字を見る側。いっぽうNPOは数字をつくる側です。それまではどうやって数字ができるのか理論的には知っていても実際はわからないまま。でもNPOの実務に携わったことで数字を扱う大変さがわかり、経理職の方々へのリスペクトが生まれました。その後、会計担当理事という役職に就き、経営視点で団体を見る経験も。これも本業に生きたんです。それまでは〝ただの紙〞だった経営会議の議事録が宝物のように見えてきました。組織が意思決定する過程や、これからどこに向かおうとしているのかもわかる。プロボノ活動を始めてから、監査の仕事も楽しくなりました。
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認定NPO法人フローレンスディレクターCFO 公認会計士横山 正宏
認定NPO法人フローレンスディレクター
フローレンスにフルコミットしてもらう以前、横山には業務委託のかたちでかかわってもらったことがあります。会計の専門性を発揮し、できないことはできない、いけないことはいけないと伝えてくれる、信頼感がありましたね。それからコミュニケーションがマイルドであることもありがたかったです。保育事業を運営し、女性スタッフが多い当法人でも皆と連携できる稀有な人材だと思い、CFOとして加わっていただきたいとお願いしました。
ソーシャルセクターのCFOという役割自体がまだ珍しく、道なき道を切り開く苦労はあると思います。これまでの経験をいったん脇において判断しなければならない場面もあるはず。またNPOは寄付をいただいて運営し、事業を拡大するという側面があるため、寄付の獲得や寄付者とのコミュニケーションが欠かせないと考えています。この仕事には“会計士”としての領域を超えて、柔軟に対応していただける方、その気概がある方が、向いていると思います。