大原大学院大学 会計研究科 教授
青山学院大学 名誉教授博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
かねてから議論のあった会計基準における「のれん」の費用処理について、新たな動きが出ている。
戦略的なM&Aでは、通常、買収額は売り手企業の帳簿上の純資産価額を上回る。両者の差額がのれんで、買収した企業のブランド力や技術力をはじめとする将来の超過収益力を反映した無形の資産と解されている。こののれんの費用処理の仕方が、日本の会計基準とIFRSや米国会計基準など海外基準とでは違う。日本基準では販管費として最大20年以内に定期償却することが求められるのに対して、海外基準では買収した企業の価値を定期的に判定し、価値が下がった時にのみその分を減損処理することになっているのだ。
こうした違いがM&Aに与える影響は、決して小さくない。日本基準を採用している企業は、M&A後に毎年のれんの償却費計上を行うぶん、海外基準の企業に比べて営業利益が圧縮される。買収後にはこの償却費を損益に織り込む必要があるため、海外企業などとの競争に不利になりやすい、という問題もある。このため、M&Aに積極的な成長企業を中心に、日本の会計基準も「のれんの償却は不要」に改めるべきだ、という声が上がって久しい。
今年5月末、首相の諮問機関である規制改革推進会議が、のれんの費用処理について、企業会計基準委員会(ASBJ)における適切な議論が行われるようフォローしていく、という答申をまとめた。冒頭の“新たな動き”とはこのことだが、実は当初の答申案は、ASBJに対して「のれんの非償却化」などの具体的な基準改正を要請するものだった。のれんの非償却化にはデメリットもある。想定外の事態で減損が発生すれば、それを一気に処理しなくてはならず、経営にダメージを与えるリスクが生じる。ASBJ内に根強いそうした“慎重論”が、“揺り戻し”を演出したのは想像に難くない。
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大原大学院大学 会計研究科 教授青山学院大学 名誉教授博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。青山学院大学経営学部教授、同大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、名誉教授に。 2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授。日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員等を歴任し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。
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