
大原大学院大学 会計研究科 教授
青山学院大学 名誉教授博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
株式市場の信頼性を揺るがしかねない不祥事が後を絶たない。本コーナーでも、上場企業の不正会計などについてたびたび触れてきたが、悪事を働くのは会社だけではない。ここ数年、市場を監督する立場にいた関係者による悪質な「インサイダー事件」が、立て続けに発生した。
インサイダー取引は、2006年(起訴された年、以下同じ)の「村上ファンド」によるニッポン放送株の取得で、世間の耳目を集めることになった。その後も大きな事件が散発的に発生していたが、24年には、金融庁に出向していた裁判官が入手したTOB(株式公開買い付け)情報で株を購入する、さらに東京証券取引所の社員がやはりTOB情報を親族に漏洩する、という事件が明らかになったのだ。
あらためてインサイダー取引について述べておけば、それは、株価に影響する“重要事実”を知った“会社関係者”やその話を聞いた“情報受領者”が、事実の公表前に利益獲得や損失回避を目的に、株式の売買などを行うことをいう。金融商品取引法が固く禁じる行為で、違反した場合、不正な方法で得た利益が没収されたうえ、刑事罰の対象にもなる。
2つの事件で看過できないのは、不正に目を光らせるべき人間が、間違いなく違法性を認識しながら悪事に手を染めた、という事実である。一般とは異なる権限を持ち、任務を帯びていれば、その職責に対してより高い自覚が求められる。そうした職業倫理が丸ごと欠落していた、というしかない。
公認会計士にとっても、決して他人事ではない。監査人として様々な企業の機密情報を知りうる立場の公認会計士は、“会社関係者”である。多くの監査法人で、原則として所属会計士の株取引を禁止しているのは当然だろう。
この記事の続きを閲覧するには、ご登録 [無料] が必要です。
大原大学院大学 会計研究科 教授青山学院大学 名誉教授博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。青山学院大学経営学部教授、同大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、名誉教授に。 2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授。日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員等を歴任し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。
| vol.80の目次一覧 |
|---|