公認会計士「研修出向制度」体験者リポート
花王株式会社
会計財務部門奥田 祐也
監査法人時代は、どんな企業を担当していたのですか?
奥田主に国内のメーカーの会計監査に携わりました。IPO(新規株式公開)のお手伝いをしたこともあります。大学を出てすぐに監査の仕事に就いたのですが、当然のごとく初めは戸惑うことばかり。公認会計士の資格は取ったものの、監査がどういうものなのかなど、ほとんどまったくわかっていませんでしたから。
やりがいを感じるようになったのは、ある程度仕事がわかってきてからですね。たとえば同じメーカーでも、業種などによって、仕事の中身はぜんぜん違う。そういう、いろんな個性を待った企業と広く接することができたのは収穫でした。普通は、就職すればその業界一本槍で、20代で多種多様な企業の中をのぞくことって、ないでしょう。
出向の話があった時の率直な感想を聞かせてください。
奥田僕の場合は、まさに「渡りに舟」。この制度ができる前にも、数は少ないのですが、事業会社に出向する例があって、「機会があれば、ぜひ僕も」と、手を挙げ続けていました。
仕事がわかってくるにつれ、会計の知識だけではやっていけないという気持ちが、日に日に強くなったのです。話をする相手は、現実のビジネスに精通しているわけです。にもかかわらず、こちらが知識ゼロでは、心の底から信用してはもらえないのではないかと。いろんな企業の中をのぞいたといっても、しょせんそれは「広く浅く」なんですね。一度しっかりした事業会社に身を置いて、現場の「ビジネス」を勉強したかった。ちなみに、監査法人には、事業会社で働きながら資格を取って入社してくる会計士もたくさんいます。そういう人は、話をしていてもやはりちょっと違う。自分にはない、ビジネスを知る深み、厚みのようなものを感じるんですよ。
花王では、具体的にどのような仕事を任されているのでしょう。
奥田会計財務部門に所属して、IFRS導入プロジェクトの一員として働いています。花王では、この部門の8人とその他管理部門を含めて総勢50名が、IFRSに携わっています。「収益」「固定資産」「人事」「研究開発」などのチームがあるなか、私に期待されていることは、会計の専門家としての視点も交えて全体を俯瞰し、導入に向けた筋道をプロジェクトメンバーと一緒に考えていくことと感じています。
出向して1年ほどになりますが、プロジェクトは準備段階から「離陸」したところ。ただ、「企業の何たるかを知る」という私自身の目標に照らすと、正直「まだまだ」の1年でした。ビジネスの本質とは何か、取引の背景にあるのは何か、研究開発の意図とは。そうしたことを常に念頭に置いて仕事をしなければと、頭ではわかっていても、ついつい「数字」をとおして見てしまうのです。改めて、ビジネスをどうとらえるのかというのは難しいテーマだと、痛感させられました。
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花王株式会社会計財務部門奥田 祐也
花王株式会社会計財務部門 取締役 執行役員
出向を受け入れるに当たって日本CFO協会にお願いしたのは、「通常の実務ではなく、われわれとともにIFRSの導入プロジェクトに取り組み、それをリーダーとして推進できる人材が欲しい」ということ。そうでなければ、3年間監査法人でのキャリアを「犠牲」にして来る本人のためにもならない。
プロジェクトにおける奥田さんの役割は、IFRS導入のために必要な論点の整理。それを花王の実務に落とし込んだ時にどうすべきかを、それぞれのチームの人間が考えていく、というイメージだ。彼の会計士としての専門性はいかんなく発揮されており、われわれとしても勉強になることが多い。
あえて付言すれば、制度が会計士の「リストラ」を企図したものだという見方があるが、それは違う。リストラ目的ならば、奥田さんのような優秀な人間を出向させるはずがない。