
The CFO –ニッポンの最高財務責任者たち-
グロービング株式会社
上級執行役員CFO建林 秀明
グロービング株式会社は、2021年3月の本格的な事業開始からわずか4年で、社員数約200名の上場企業に急成長した。「内なる外」を標榜し、顧客企業の業務に深く入り込み、高度な戦略立案を行う。同社のIPOを牽引したのがCFOの建林秀明氏。野村證券で17年にわたりIPO業務に従事した〝IPOのエキスパート〟だ。
「地元で父の家業を継ぐよりも、上京してプロフェッショナルとして働きたい。一つの会社に依存するのではなく、手に職をつけて」。高校2年次、進路を見据えた際に建林氏はこう考えた。
「となると、私は数字を扱うのが得意ですし、公認会計士なら多様なキャリアを描けそうだなと」
会計士試験の合格者数が多い慶應義塾大学に進学すると、大学2年次から専門学校に通い始め、試験勉強に専念。2度目の挑戦で合格を果たした。
「会計士の勉強自体、向いていたと思います。1つの科目で突出していなくても、7科目をバランスよく仕上げれば、いい成績がとれる。〝広く浅く〟すべてを身につける試験勉強のスタイルが性に合っていました」
建林氏のキャリアはトーマツで始まる。折しもIPOブームが始まり、IT企業など多くのベンチャーが続々と上場を果たしていた頃だ。「IPO関連の業務に携わりたい、新しい産業が創出されるダイナミズムを肌で感じたい」と建林氏も触発された。しかし、トーマツで配属されたのは国内監査部門。「毎年大きく変動しない数字をチェックするのが仕事。自分が思い描いていた仕事の面白さとは違った」と建林氏は振り返る。
「ただ、金融機関系のデューデリジェンス業務に携わる機会が多かったのは収穫でした。複数の会社の財務諸表をぱっと見て数字から会社を立体的に理解する。のちに、野村證券の審査部門でも役立ったスキルです」
野村證券に転職したのは、IPO業務を一から学ぶためだ。
「監査法人から見えるIPOの世界は断片的です。一方、証券会社は、東証や監査法人、印刷会社、信託銀行などあらゆる関係先をマネジメントする立場です。証券会社に入って初めて、IPO業務の全体像を理解できました」
以降、建林氏は野村證券で17年のキャリアを積むことになる。入社後まず配属されたのは引受審査部だ。一般的に、引き受けを行う際のリスク評価・コンプライアンス審査を担う部署だが、なかでも野村證券の審査は「国内で最も厳しい」と評される。
「監査法人がOKを出しても、野村證券は『これは会計的におかしい』と指摘することが少なからずあります。監査法人は何年もかけて『この会計処理でOK』などと判断しているわけですが、野村證券は同業他社との比較や投資家やアナリストへの説明なども考えて『その処理ではミスリーディングではないか』と〝そもそも論〟で反論する。実際、私が審査を担当して、引き受けを断った案件もあります。その会社はのちに別の証券会社を主幹事にして上場しましたが、数年後に粉飾が発覚、上場廃止となりました」
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グロービング株式会社上級執行役員CFO建林 秀明
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