
大原大学院大学 会計研究科 教授
青山学院大学 名誉教授博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
ところで、25年には、国内信託銀行最大手である三井住友信託銀行の証券代行部門の部長職にあった元社員が、在職中のインサイダー取引容疑で起訴されている。株の売買は56回に及び、約3000万円もの利益を手にしていた。この問題を受け、親会社三井住友トラストグループは、同社の社外取締役を委員長とする調査委員会を設置したのだが、公表された報告書には、正直驚いた。事件の原因などを指摘する一方、「ある程度の自己売買の自由を認める余地を検討することを提言したい」と結論づけていたからだ。
元部長は、老後の不安が動機だったと語っている。ならば、不正を防止するためにも、社員に資産形成のための株取引を認めるべき、ともとれる“言い分”だ。しかし、信託銀行の中枢にいたら、立派な“市場関係者”だろう。守るべきは、“ゼロ・トレランス”(不寛容)の視点から、不正を疑われるような行為から一線を画すルール、仕組みの構築にあることは、いうまでもない。
不正は「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」という要因が揃うと起きやすいという「不正のトライアングル」の考えが浸透している。インサイダー事件は、まさにこれに当てはまる。「生活資金が足りない」「確実に儲ける手立てがある」「株取引は経済的自由の範疇だろう」―― 。
仮に個人の動機はコントロールしにくかったとしても、不正の機会は内部統制を働かせて断つことが可能なはずだ。どんな組織にも不正は起こりうる、ということを前提に、より有効な対策を検討すべきである。
大原大学院大学 会計研究科 教授青山学院大学 名誉教授博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。青山学院大学経営学部教授、同大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、名誉教授に。 2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授。日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員等を歴任し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。
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