会計士の肖像
アタックスグループ
代表パートナー林 公一
行く末を定めた林は、入社6年後に株式会社アタックス取締役に、2008年にはグループの代表パートナーに就任した。代表のほか2人は、ともに一回り上の世代である。「上から言われ、下からも言われ、僕は中間管理職ですよ」と笑う。
上からは、「代表権を持っているのだから、そろそろ経営の立場でちゃんとやってもらいたい」と。確かに全体のマネジメントは、今の僕に課せられた使命だし、これからはその比重が高まっていくと思っています。実のところかつての僕は、上司としては「超パワハラ」と言われても仕方ない人間だったんですよ。とにかくお客さまありきで、そのために少しでもいいものをつくりたい。そういうストイックさが部下への対応にも如実に反映して、平気で徹夜をさせたりしていました。懸命に作成したレポートにダメ出しされて、目の前で泣き出した部下もいましたね。それでも全然気にならなかったのです。ひどいですよね(笑)。
それではダメなんだということを教えてくれたのは、やはりオーナー社長さんたちでした。「世の中には多彩な価値観があることを認識しないといけない」「プロフェッショナルの前に一人の人間として相手に向き合うことが大事だ」――。彼らの発言、行動は、僕にとってはまさに生きた教材だったのです。時々出会う、反面教師も含めて(笑)。
ともあれマネジメントには、自ら稼ぐのとは違う面白みを感じますね。〝ヒト・モノ・カネ〞を動かして、全社のミッションに貢献していくというのも、今までになかった経験です。西浦(道明・代表パートナー)が今指摘するのは、「AIに取って代わられる職業ナンバーワンの税理士業界で、どうやって生き残っていくか」というテーマです。答えの一つは〝横串〞にあるのではないかと、模索を始めているんですよ。
当グループは、税務、ビジネスコンサルティング、ヒューマンコンサルティングといった専門集団を抱えていますが、やはり縦型組織なんですね。そこに横串を通す、要するに自分の専門外も知ることで、より柔軟で幅広い対応が可能になるでしょう。アンテナの感度を磨けば、お客さまのニーズを的確にキャッチして、必要に応じて別の専門に振ることもできるはず。そうした意図の下、企画から策定を任せていただき、昨期からスタートしたのが、「アタックス・アカデミー」です。例えば事業承継の自社株対策、中小企業経営論、税務の基本的なところなど、全部で30程度の科目があって、一定単位を取得しないと昇進はできません。この業界の意外な弱点であるロジカルシンキングの講座もあるんですよ。
育てたいのは、「とにかく、あいつに聞けば何か答えが返ってくる」という〝人財〞なんですね。そうした取り組みを通じて、新しい時代に通用するコンサルティングファームを創っていくのが、今の僕の夢なのです。
今年53歳。そのキャリアを生かした活躍を期待されるのは、これからといっていい年齢だが、「後継を育成し、きちんとバトンタッチしていく必要性を常に感じている」と語る。そこには、「頭が詰まって、頑張った若い人が上に行けない組織には、絶対にしたくない」という思いがあった。そんな林に、あえて〝その先〞を聞いてみた。
確かな青写真があるわけではないのですが、何らかの肩書で、自分の経験を生かしたベンチャー支援などもしてみたいですね。僕はいろんな人に助けてもらい、教えてもらってここまで来ました。それを還元していくのも、自分の使命だと思っているんですよ。
後から考えれば、ニューヨークに行って監査をやらせてもらえなかった時、「話が違う」と帰国していたら、今のポジションはなかった。最近の若い人は、いろんな判断が少し早すぎる気がします。与えられたミッションをとにかくがむしゃらに追いかけることが、必要な時期もあると思うんですよ。
ただしそれだけではダメで、5年も経ったら一度立ち止まって、「これは自分がやりたいことなのか?」と真剣に考えてみる。我々の商売が一般事業会社などと違うのは、組織に縛られることなく、自分のキャリア形成が自分でできることです。常に経験値をアップさせながら〝やりたいこと〞を探し出し、そこに向かってキャリアを積み上げていく。そういう意識をもって仕事ができたら、こんなに楽しいことはないじゃないですか。
今でも、たまに大学の同期と会うことがあります。「赤坂で寿司」と言っていた友人たちは、経済環境に翻弄され、組織の論理に揺さぶられ……。自分で言うのもなんですけど、僕が一番〝若い〞。「会計士になってよかったな」と、しみじみ思うんですよ。
※本文中敬称略
アタックスグループ 代表パートナー林 公一