青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
「公認会計士試験に合格したけれど、日商(日本商工会議所)の簿記検定には落ちちゃった」。ブログにそんなことを書いた人間を見つけた。実際、昨年末に行われた会計士試験の短答式の合格率は、19.8%。片や日商簿記検定2級のそれは、13.4%だった。
確かに、会計士のほうは、続けて論文式試験を突破しなければならない。70年近い歴史を持つ簿記検定は、特に各級の内容とレベルに関する制度改革に着手していた、という事情もある。中小企業であっても、会計には上場企業並みのスキルが求められるようになっているといった時代の要請にも応えて、出題範囲を大幅に見直し、一言でいえば合格が難しくなったのである。
しかし、そうした背景を踏まえてもなお、冒頭のような事態を、笑い事で済ますわけにはいくまい。このところ顕著になっている会計士試験の“易化現象”は、由々しき事態だと言わざるを得ない。
会計士試験が“易しく”なった理由は、受験生の減少と「監査の人手が足りない」ことにある。度重なる企業の“会計不正”の影響もあって、会計監査に対する期待のハードルは高くなるばかり。同時に、従来の上場企業の枠を超えて、非営利法人などを対象とした法定監査領域の拡大が進む。単純な事務処理も含めて、現場は忙しくなる一方なのだ。
一方で、そうした多忙を嫌い、あるいは企業不祥事が起これば監査法人がやり玉に挙げられるような環境を嫌気して、職を去る中堅が増えている。現状のやり方を踏襲する限り、「とにかく人を補充しないとやっていけない」という実情があるのはわかる。
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青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、金融庁企業会計審議会委員、金融庁「会計監査の在り方に関する懇談会」及び「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会」のメンバーを兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。