会計士の肖像
アタックスグループ
代表パートナー林 公一
晴れて当時の公認会計士二次試験に合格し、選んだ就職先はKPMGニューヨーク事務所だった。外資系事務所なのだから、当然英語はペラペラと思いきや、なんと「まったくダメ」。90 年に渡米し、そこでの仕事を始めることになるのだが、通常の監査の仕事は、なかなか回してもらえなかった。
受験生時代に、受かったと思って事務所回りをしたんですね。当時の港監査法人にも行って、「将来何をしたいのですか?」と突然聞かれたので、軽い気持ちで「海外で働きたい」と答えたんですよ。中学時代にアメリカでホームステイした時の楽しい思い出が、そう言わせたのかもしれません。
すると、「ちょうど今、ニューヨークのパートナーがいるから」と、後に中央大学の教授になった間島進吾先生を紹介されたのです。先生とは、その後もやり取りしていたのですが、「やっと受かりました」と連絡したら、「じゃあ来なさい」と。それが、KPMG入所のいきさつなんですよ。間島先生には、「言葉は、こちらに来れば何とかなる」と言われていたのですが、甘かった(笑)。日系企業でも規模の大きな会社になると、経理周りは全部アメリカ人。英語がしゃべれるのは必要条件で、僕は監査のチームに入れてもらえないのです。
で、何をやったかというと、メインは個人の所得税・法人税の申告書作成。監査をやるために会計士になったつもりなのに、何だこれはと思ったけれど、どうしようもない。1、2年は、そんな状態で仕事をするしかありませんでした。ところが、そうこうするうちに時代は動き、会計に繰延税金資産の考え方が入ってきて、厳格に適用される状況になったんですよ。要するに、所得に関して、会計上の計算と税務上のそれとをきちんと調整しなさい、ということです。ただKPMGのような大きなファームだと、会計、税務それぞれの専門部署があって、両方を経験している人は、多くなかったと思います。
不本意ではありながら、しこしこと法人税の申告をやったおかげで、税がわかる、会計も知っている。いろんな人が僕に質問してくれるようになりました。その頃になると、ようやく英語にも慣れ、そのオーダーにも対応できるようになっていました。そこからは、徐々に監査の仕事も回してもらえるように。5年ほどで、全米に10も20も支店・子会社のあるような企業のインチャージを、アメリカ人の部下を使ってやるところまでいけた。楽しかったし、嬉しかったですね。
H‐1B(特殊技能職)ビザの期限は5年。仕事に脂がのってきた日本人に対し、会社はグリーンカード(米国永住権)の取得を提案した。弁護士へのフィーなどを考えれば、破格の申し出だ。しかしこのタイミングで、林は日本への帰国を決断する。「監査は一通りやった」「今度はM&Aがやりたい」というのが理由だった。
ずっとアメリカで仕事するつもりなら、会社の提案をありがたく受け入れていたかもしれません。でも、いつかは日本に戻りたかった。だったら潮時かな、と。GCAサヴィアングループのCEO・渡辺章博さんが当時の上司で、彼が帰国して日本でM&Aサポートをやるというので、「連れていってください」とお願いしたのです。そうやって、KPMGコーポレイトファイナンスに転籍しました。とはいえ、M&Aに造詣が深かったわけではありません。というより、何も知らなかった。ただ、「何をやるのだろう」という興味を、ものすごくそそられたんですね。
そんな僕に、渡辺さんは懇切丁寧に……。お客さまに出すレポートが、30分前に真っ赤っ赤に直されて返ってきた時には、さすがに焦りましたけど。とにかく「最後の最後まで、いいものにするように力を尽くす」という姿勢は一貫していて、学ぶべきところが多かったです。仕事はといえば、今では考えられない「24時間戦えますか」の世界。僕は、日本企業が海外を買収するインアウトの案件が多かったので、月に1回は海外なんですよ。メキシコから帰ってきて、翌日ジャカルタに飛ぶなんてこともありました。
ところで、このM&Aに取り組んでみて、気づいたことがあります。監査をしている時には、仕訳で決算書をつくるのがただ面白かった。しかし実はそこに載っている数字は、面白いだけでなく〝使える〞のです。数字と会社実態は表裏一体で、決算書を読み込めば、ある程度の事業の分析ができる。それからというもの、デューデリジェンスに行く時には、必ず事前に事業の仮説を立てるようにしました。例えば「原価率がこうで、販管費がこれくらいならば、こんなビジネスのやり方をしているんだろう」といったふうに。インタビューしてみて、仮説のイメージ通りならそれでよし。違う場合は、相手が嘘を言っているのか、決算書がおかしいのか?それを基に、「もう少しこの部分を教えてください」と突っ込んでいけるわけです。いずれにしても、かなり厳しい、きつい、でもとても充実した日々でした。
アタックスグループ 代表パートナー林 公一