会計士の肖像
公認会計士浜田康事務所
浜田 康
時代背景もある。浜田が学部を卒業する頃は不景気な時代で、特に理系の就職状況は氷河期にあった。思うような就職活動ができないことも背中を押したのだろう。資格取得に向けて受験勉強に力を入れ、当時の第二次試験に合格したのは1975年。この時、浜田は早稲田大学大学院の理工学研究科に在籍する〝大学院生〟だった。
理系の学科ですから、当然、文系で学ぶような経営学や経済学、昔でいう商法などは全然勉強しておらず、そこは苦労しましたよね。予備校での勉強だけで、2回目のチャレンジで合格できたのはラッキーでした。同級生たちは、理系ではなく文系の枠で就職活動していた時代ですから、このタイミングで会計士の資格を取れたのは本当によかったです。
で、合格して喜んだのはいいんですけど、私はこの世界の就職事情に疎く、待っていればどこかから連絡があると思っていたんですよ。そんな調子でのんびり構えていたある日、やはり同じ学科を出て会計士になった先輩がお祝いに来てくれて、「どこに入るんだ?」と。「まだ、連絡がないんですけど」と答えたら呆れられて(笑)、「自分で動かないと、入れてくれるところはないぞ」というわけです。業界的に採用数が絞られている時期だということも教えてくれました。そこから慌てて問い合わせをしたのですが、ほとんどのところが採用を締め切っていて、ギリギリ受け付けてくれたのが当時の中央会計事務所だけ。文字どおりの滑り込みでした。
学生との二足のわらじでは申し訳ないと思い、私は大学院を辞めるつもりだったんです。でも、当時の上司だった奥山章雄さんが「もったいないから続けなさい」と、勤務時間を配慮してくださった。加えて、監査界の重鎮である村山徳五郎先生のグループで採用してもらえたことも、仕事の鍛練においてラッキーでした。
思えば、友人に声をかけられて会計士の道を目指した時から就職まで、偶然の連続。自分で考えて、計画を立てて「今がある」というよりは、タイミングや人との巡り合わせに恵まれてきたのだと思います。
会計士の仕事は、「自分一人で机に向かっていれば済む」と想像していた浜田にとって、その実はかなり違った。当初はギャップがあったが、様々な現場に出向き、経験を重ねていく過程で、浜田は次第に、監査業務に大きなやりがいを感じるようになる。ただ数字を追うのではなく、その背景にまで踏み込む深度ある監査は「やればやるほど面白くなった」。
極端な話、一日中電卓をたたいて書類をチェックしていれば仕事が終わると思っていたんですよ。そして、あまり社交的ではない私には向いているとも。ところが始めてみると、話は全然違いました。事務所にいる時間などほとんどなく、大半は監査先に出向いて〝話を聞く、話をする〟です。今とは違って、現場ありきの時代でしたから、最初のうちはけっこう疲れました(笑)。ただ不思議なもので、「話を聞き出すことができないと仕事にならない」とわかると、いつのまにか苦手意識は消えていましたね。
メーカーや百貨店をはじめ、それはもういろんな業種の監査に携わりました。昨今は一つの業種を専門に扱う部門を据える事務所が多いですが、当時は何でもやるという感じ。体はきつかったけれど、経験や学びに広がりがあったように思います。
監査業務に直接かかわる話ではないのですが、新人時代に学んだ印象深い一件があります。監査先として行っていた王子製紙でのこと。製紙は好不況の波を受けやすい業種の一つです。巨額ともいえる設備投資をして、実際に稼働させるまで何年もかかるような世界なので、需要などに対する見積もりが狂うこともあり、つまりは経営が難しい。そのなか、王子製紙はこんなスローガンを掲げていました。「稼働率60%でも利益が出る会社にしよう」。基礎体力をつけることの重要性を示したもので、仮に大きな不況や惨事に見舞われたとしても、それを吸収できる体質にしておくという考え方です。
これが、私には大きな学びになりました。個人に当てはめると、稼働率60%でほかの人と同等の仕事ができるように力をつければいいのだと。そのためにしっかり勉強しておく、準備しておくという心構えができたのです。人間、その場その場でめいっぱい仕事をしていると追い詰められてリスクもあるし、長くは続きません。「これは自分の〝フル〟ではないんだ」という気持ちの持ちようも、潰れないためには大事です。昔は昼夜問わず仕事をするのが当たり前だった世界。そのなかで、自分のスタンスを確立できたのは大きかったと思います。
公認会計士浜田康事務所浜田 康
◎その他活動
筑波大学大学院非常勤講師(1997年~99
年)、電気通信大学非常勤講師(1999年~
2002年)、日本放送協会入札契約委員会委員長
(2015年~16年)、証券取引等監視委員会委
員(2016年~22年)、日本公認会計士協会自主
規制モニター会議委員(2023年~)。
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