会計士の肖像
有限責任監査法人トーマツ
包括代表國井 泰成
その後、監査業務全体を取りまとめる執行役も経験して、18年6月、國井は包括代表に就任。トーマツが50周年を迎え、次の100年に向けて新たな歩を踏み出す重要なタイミングで経営のバトンを受け取った。聞けば、本人にとっては想定外だったそうで、「自分でもびっくりしたというのが正直なところ(笑)」。
それまでマネジメントの仕事7割という感じで、少しずつ勉強させてもらっていたのは事実ですが、包括代表はまったく想定していませんでした。
始まりは、突然かかってきた1本の電話でした。うちの場合、法人内にある推薦委員会が最終候補者を決めるのですが、その委員会から「プレゼンをしてほしいのですが」と依頼があったのです。当時抱えていたいくつかの組織課題を前提に、「どう捉えているか、どう対応していくべきか」を提案してほしいというわけです。最初は正直驚きましたが、今すぐに返事がほしいと言われまして、そこまで言われると断るという選択肢はないなと。
そして18年の2月頃にプレゼンをし、しばらくしてからボード会議で最終的な決議がされたと聞きました。最終候補者はほかにもいたでしょうし、私には当時のプロセスの詳細はわからないのですが、どこかで誰かが見ていてくれて、評価をしてくださったのだと思います。
まさに変革期を迎えていました。デロイトのグローバルからも変革を求める声が挙がっており、日本は、メンバーファームのなかでもアメリカやイギリスに次ぐ規模ですから、期待値は当然高い。応えるには、新しいマネジメントを通じて組織をもっと強化していかなければなりません。現在、最も重きを置いている仕事は、「今、何が必要なのか」を見極めること。取り組む課題の重要度や優先順位をクリアにして、確実に実行体制に移す、それを大切にしています。身近な問題もありますし、当然、長いスパンでの視点から割り出す「今、打っておくべき布石」もある。そんなことを常に考え続けている日々ですね。
トーマツでは、未来を見据えた新しい取り組みが積極的に行われている。17年には、国内初の監査手続きにおける残高確認オンラインサービス「Balance Gateway」の提供を開始し、追ってビッグ4共通にするための合同会社を設立。また、監査業務の標準・集中化を担う「トーマツ監査イノベーション&デリバリーセンター」を開設するなど、業界に先駆けた取り組みが目を引く。核にある概念は「Audit Innovation」である。
デジタル化はものすごい勢いで進んでおり、当然、監査もそれに対応したものに変わっていかなければなりません。論を待つまでもなく、技術的な問題に対しても、次代の人材育成に対しても大きな投資をする必要があります。そうなってくると、現実問題として収益力を一段強めていかないと、十分な投資ができないわけです。つまり強固な財務基盤を維持しなければならないということですが、それはあくまでも、絶対的にいい品質の監査を提供するためにです。ITを柱にしたイノベーションを進めてきたなか、収益力の強化は一つ大きな経営課題であると考えています。
監査というのは内需依存型の側面が強い産業で、当たり前ですが、日本企業が成長していってくれない限りは我々の業務規模は拡大しません。経済の低迷が続き、もはや伝統的な財務諸表の監査だけでは成長が望めない今、あらためて資本市場からの期待に照らして、我々が持っている価値や社会的信頼をどう生かすか、捉え直す必要があります。持続可能な社会づくりに目を向ければ、例えば、企業が二酸化炭素の排出量を開示する時などには、会計士特有のポジションを生かして情報の信憑性をはかるという仕事が出てくるかもしれない。資本市場から求められている期待を見極め、新たな業務を掘り起こす必要がある。ただ制度が作られることを受け身で待っているだけでは間に合わないと思うんですよ。もちろん一法人でできることではないので、業界全体や社会に対して「一緒に」という働きかけをしているところです。成長が見込める魅力的な業界でなければ、いい人材も入ってきませんから。
私が新人の頃にやっていた仕事は、ほとんどなくなりつつあると言っても過言ではありません。従来、新人が担当していた単純作業的な業務はITやトーマツ監査イノベーション&デリバリーセンターが担い、監査の現場は日に日に変わっています。それに、今はキーワードをポンと叩くだけでどんな情報も手に入る時代ですから、業界を問わず“知識だけ”の専門家はもう通用しません。これが最大の変化だと思います。求められるのは、やはり創造力。監査の本質である、事象や数字の裏側を読み取り、そこから課題を抽出し、課題に対するソリューションを始めとしたより価値の高い監査を提供する、それでこそ専門家です。よく言われることですが、結局、AIによる分析や情報を使って「何をするか」を考えるのが我々の仕事だということです。
有限責任監査法人トーマツ包括代表國井 泰成