会計士の肖像
日本公認会計士協会
前会長(現相談役)関根 愛子
協会の常務理事として、また並行して活動したIFAC(国際会計士連盟)の審議会の委員として、「倫理の基準づくり」にも携わり、10年、関根は協会副会長に就任。そして、2期務めた後に女性初の会長となった。課題山積の厳しい時代にあって悩んだ末の立候補だったが、踏み切ったのである。
「自分の強みは何ですか」と聞かれ、「女性であること」と言い切った記憶があります。それまで自分自身では、女性ということはあまり意識していなかったのですが、業界もビジネスの世界もいまだ男性社会なのは事実。やはりアンバランスでもったいないと感じていたので、女性がもっと働きやすくなるための何か役立ちになれば、という思いはありました。にしても、あれほど“女性初”が注目されるとは、正直、驚きでしたが……。
やりたいと思ったことはたくさんあったので、大きく3つに整理して取り組んできました。監査の信頼回復と向上、会計士が社会に貢献して活躍するための環境づくり、そして、国際性・多様性を担える人材の確保と公認会計士の魅力向上です。施策はいろいろと講じましたが、私が会長になる直前に設立された「女性活躍促進協議会」は、女性会長が誕生したこともあって気運が高まりました。公認会計士に興味を持った女性向けのシンポジウムを開いたり、出産や育児などで仕事を一時中断しても復職しやすいようリスタート応援研修を実施したり、女性会計士フォーラムを開催したり。これらは「意見交換の場」としてネットワークづくりに役立ち、皆さんの励みにもなったようです。協会の女性会計士比率は15%ほどで、諸外国に比べれば圧倒的に低いのが現状なので、まだ途に就いたばかりですが、一定の道筋はつけられたかもしれません。
今思えば任期の3年間は、アッという間でした。総体的にある程度はやれたと思う一方で、道半ばのこともあったので、最後の半年は「何ができたか」「何ができていないか」――次にきちんとバトンタッチするための準備に費やしてきました。リレーの第4コーナーを回ったところで転んだり、バトンを落としたりしたら大変で、つなげることが大切だから。そして、受け取った次の人が、バトンを材料にまた新たな判断をして、頑張ってくれればと思っています。
この夏、大任を終えてからの日々はようやく落ち着きを見せており、「今年いっぱいはのんびりする予定」。とはいえ、すでにIFACでは、当該の理事などを選ぶ「指名委員会」の委員にアジア枠代表として活動しており、加えてボランティア仕事もいくつかある。変わらず引く手あまたの状態だ。
ここまで育ててくれた業界や社会に恩返しをしたいし、次代に向けた人材育成にも力を尽くしたいと考えています。監査の仕事って、私が監査法人に入った頃に比べると大きく違ってきていて、本来のやりがい、魅力が感じられていないように思うので、それを伝えていきたいのです。変化を痛感するのは格段に増えた情報量で、今はその情報を確認する作業に汲々としているのではないか、「チェックする作業が監査」になっていないかと思っています。これは私たちにも責任があり、今一度、しっかり考える“時間の余裕”を確保することが重要で、それは会長時代にも声にしてきたことです。
「AIに仕事を奪われる」。よく耳にする話ですが、考えてみれば、ITが発達して情報が増えてきたのだから、それに人間が追われるのは妙な話です。むしろAIやITにこなしてもらうのが本来。今は過渡期だけれど、これまでの長足の進歩からすれば、そうなるでしょう。情報に追われる作業から解放されるのなら、むしろメリットじゃないですか。そのぶん“考える余裕”を持つことができます。判断したり、話をしたり、時には回り道をしたりという人本来の仕事が。会計はアカウンティング、「説明する」。監査はオーディット、「聞く」。それが仕事本来の意味であり、面白さもここにあるのです。ぜひ、AIやITと仲良くやりながら、仕事を楽しんでほしいですね。そのためには柔軟な思考と、前向きな姿勢を持つことが大切かと思います。
公認会計士制度が制定されて70年というタイミングを、時の巡り合わせで会長時代に迎えました。全国で記念事業も行いましたが、併せて、100周年に向けて「会計士が持続可能な世界に貢献し続けていくためにはどうしたらよいか」を考えていこうと特別委員会もつくっており、公認会計士制度がさらに発展できるように尽力していくことが必要だと考えています。100周年の時はさすがに現役ではないと思いますが(笑)、それまで元気に過ごし、皆でお祝いしたいなと楽しみにしています。
日本公認会計士協会前会長(現相談役)関根 愛子