会計士の肖像
株式会社豆蔵ホールディングス
代表取締役社長荻原 紀男
上場後は、内部統制支援や、それに付随したコンサルティングを主軸に事業領域を拡大。そして、追って06年には持株会社を設立し、今ではグループ会社11社を擁する。今期(16年3月期)の連結売上高は220億円を超え、過去最高となった。その急成長の要にあるのは、積極的に重ねてきたM&Aだ。ここにも、荻原の会計人としての視点と手腕が発揮されている。
システム会社の生命線になるのは、何といっても人材ですが、高度な設計ができる技術者を一から育成するには長い時間がかかります。経験者を採用するにも、人件費の3割以上が紹介手数料に取られ、雇用すればするほど赤字になるんですよ。これじゃ厳しいなと思って、同じような開発姿勢を持っている会社に声をかけてみようと。
最初にM&Aをした先は、オープン系技術に強いオープンストリームという会社です。対象候補リストを見ていたなか、瞬間的に「ここだ」と目に留まった会社なんですけど、これが不思議なことに、先方から先に話があったんです。オーナーが株を売りたがっていたらしく、向こうは向こうで、うちに興味を持っていた。念が通じるというか、この手の神がかった話はけっこうあるんですよ、私には(笑)。
買収したなかには、業績的に厳しかった会社もありますよ。のちに爆発的に伸びてくれたネクストスケープなどは、豊かな技術力や発想力を持ちながらも経営が弱くて瀕死の状態でした。でも、理念を共有し合える会社ならば、再生することは必ずできます。ゴールを明確にし、それに向かって足りないものは補い、余っているものは削る。私は命懸けのつもりだし、単刀直入にやるから、例えば、それが足かせになると思えば、買収後のトップ交代も辞さない。葛藤もたくさんあったけれど、その一つひとつを乗り越えてきたからこそ、今があると思っています。
今年7月、「日本IT団体連盟」が発足した。IT業界の53団体・約5000社が参画する日本最大級の連合体である。荻原はこの立ち上げに深くかかわり、先陣を切って走ってきた。背景には、日本のIT産業に対する危機感がある。30年には約60万人が不足するとされているIT人材の育成問題をはじめ、業界が共通して抱える様々な課題解決に挑む、それが目下の荻原にとっての重大テーマだ。
日本のIT業界は、トップ層にNECや富士通などのガリバーがいて、そこから二次受け、三次受けする格好で、エンジニアたちは「言われたものをつくる」というのが主流の世界なんですよ。そこには創造性がなく、このままだと、何十年経ってもマイクロソフトやグーグルのような会社が日本に出てこない。例えば石油業界を見れば、原油はないから輸入するわけですが、ただ精製するだけでなく、そこから石化製品をつくって膨大に輸出しているわけでしょ。でも、ITは〝買ってきたまま〞。私には、そんな産業が伸びるはずがないという危機感があるんですよ。
今、世間では「IoT時代はソフトが重要」と騒がれていて、意味はよくわかるんですけど、それはあくまで国内市場の話であって、この先、本当にグローバルで勝てるのかと。日本には素晴らしく高い技術があるのだから、例えば他国の案件を取るとか、海外に出て人を育てるとか、できることはたくさんあるのに……全然動かない。もちろん法整備や、輸出できる環境づくり、海外で知財をどう守るかなどの問題は多々ありますから、それらを考え、解決するために、業界に横串を通す必要があったのです。
日本にはすでに、IT関連の団体が100以上存在しています。でも、語弊を恐れず言えば、仲間内の小さな目的で動いているところが多く、業界全体に対しては力を発揮できていません。それを実感したのは、私がコンピュータソフトウェア協会の会長になった時でした。これではダメだと、そこから全国組織を持つ団体と共に、日本IT団体連盟の立ち上げに動いたのです。「ITでこの国をよくしていこう」と。30年の時を経て、初めて業界が一つになるチャンスを得たのです。これを生かして、業界の発展に全力を尽くしたいと思っているところです。
振り返れば、いつもゼロからのスタートでした。私は「何かを成し遂げる」ことに対する執着がとても強いから、苦難を呼び込むようなところがあるけれど、誰でも、どんな仕事でも、どこかで何かしらの苦労はするんですよ。私にも数々の「参った」があって、かつて背負った借金や、すごく難しい案件に携わった時などは、眠れない日々が続いたものです。その渦中は大変ですが、でも乗り越えれば、必ずそれは大きな自信になります。だから「やったことがないこと」「知らないこと」から逃げず、その都度勉強すべきだし、一歩踏み出すべきです。私もまだまだ。仕事を取ったら何も残らない人間ですから(笑)、走り続けますよ。
※本文中敬称略
株式会社豆蔵ホールディングス代表取締役社長荻原 紀男