青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
ご存じのように、アベノミクスの成長戦略には「女性の活躍推進」が謳われている。それに基づき、2020年までに「企業などで指導的地位に占める女性の割合を30%程度にする」といった数値目標も示された。100人以上の民間企業における課長職以上の女性比率が7.5%(2013年:内閣府)という現状を見るならば、その実現がいかに「無理難題」であるかがわかろうというものなのだが……政府の号令一下、事はかなり拙速に進みつつある。
幹部には幹部教育が不可欠だ。それなりの経験も要る。それらが不十分なまま「女性だから」と登用すれば、男性部下との間に軋轢が生まれることにもなろう。そもそも結婚、子育てを機に多くが離職を余儀なくされる日本の労働環境の下で、優秀な女性の幹部候補生が職場にどれだけ残るのだろう?社会や職場のインフラ整備の進展がないままに「女性活用」が一人歩きした結果、現場では有能な男性が幹部コースから“排除”されるという、逆差別さえ起きている。由々しき事態と言わざるを得ない。
誤解しないでいただきたいのだが、私は現状の「男社会」のままでいいと述べているのではない。むしろ早い時期から「もっと女性の能力を生かすべき」と主張してきた一人なのだ。
そう考えるに至ったのには、海外で目の当たりにした状況が大きく影響している。例えば、海外で開かれる学会やシンポジウムに行くと、壇上に並ぶ関係者のほぼ半数は女性だ。日本企業の株主総会のように、ダークスーツに身を包んだ中高年男性がそろい踏みというような風景には、まず出合わない。
もう一つ例を挙げれば、米国の公認会計士試験の合格者は、毎回例外なくほぼ男女半々である。加えて、かつて私が米国留学していた頃、成績トップ合格者は常に女性だった。男性は大局的な視点で業務に臨むものの、女性は目の前の細かな仕事に目が奪われる、といった違いはよく耳にするが、こと“勉強”に限っては、本気を出した女性に男はなかなかかなわない。だから、「女性活用」大いにけっこう。彼女たちの能力を最大限発揮してもらうことが、日本再生の力になるという考えに異論はない。ただし、拙速は避けるべきだ。数字にこだわるあまり、企業活動の活力を殺ぐようなことになったら、本末転倒である。
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青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員、金融庁「会計監査の在り方に関する懇談会」メンバーを兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。