会計士の肖像
日本公認会計士協会
相談役藤沼 亜起
05年、藤沼はIFRS財団の評議員となり(10年に評議員会の副議長に就任)、日本が長らく懸案として取り組んできた会計基準の国際統一に尽力。約10年間に及んだ任務を終え、現在は、過去に評議員を務めた錚々たるメンバーで構成されるアラムナイ・ネットワークメンバーの一員として、IFRSの普及を支援し続けている。
かつてIFACで活動していた時代から、日本も国際基準でやっていかないと世界の資本市場から取り残される、という危機感があったから、IFRSの普及に努めてきたのです。経済のグローバル化が進むなか、会計基準を統一して、世界各国の企業の財務諸表を比較可能にするのは当たり前のこと。日本はIFRSを採用することで、世界からの投資資金を集めやすくなるはずです。
こういったルールのグローバル化には常に反対論者がいて、揺り戻しはあるものですが、特に、民主党時代はきつかった。最大の問題だったのは、政権を取った民主党が金融行政を国民新党に丸投げしてしまったこと。5年ほど前、当時の自見庄三郎大臣が突然、IFRS採用に向けた日本版ロードマップを先送りにしてしまって、IFRS議論が棚上げになった時期もありました。我々のそれまでの苦労が……ひどい目に遭いましたよ(笑)。でもその後、安倍内閣が経済のグローバル化を前提に、IFRSの適用拡大を打ち出したことで、ようやく流れが決まってきたという感じでしょうか。
現在の状況としては、今年6月の日経調査によると、日本のIFRS適用企業数は140社に達する見込みで、検討中の企業を合わせると300社を超えています。一時期を思えばスピードアップしてきていますが、まだまだ一里塚。IFRSを採用している企業の業種にも偏りがあるし、諸般の問題解決も含めて、これからは後方支援をしていくつもりです。
70歳を迎えた段階で様々なポストから退いたものの、会計士協会の相談役として、上場会社の社外取締役、監査役として、藤沼は変わらず多忙な日々を送っている。そして、広く業界全体にかかわるインフラ整備に意欲的に取り組む姿勢もまた、変わりはない。
端的に言えば、業界をもっと元気にしたいんですよ。リーマンショックあたりから日本経済が落ち込み、監査法人でもリストラが進むなど、外側から見ると、会計士は魅力のない職業みたいに映っているでしょう。会計専門職大学院の数も減ってきているし、そこに大きな問題意識があるんですね。
法曹の世界でも同じようなことが起きていますが、例えば、元日弁連会長の本林徹さんは、本林塾を運営して“元気づけ”をしていらっしゃる。私もそういう活動をしたいのです。会計の世界にも様々な分野で活躍している人材は多くいるのに、そういう人たちの顔って見えていないじゃないですか。名称は何でもいいんだけど、何か会計士という仕事の魅力を伝えられる仕掛けをしたいと考えているところです。
あと、監査に従事する会計士とは別に、組織内会計士の強化・支援ですね。ひとまず、会計士協会内に「組織内会計士協議会」が設置され、今後増加すると思われる企業などに勤める会計士のネットワークをつくり、研修教育を実施しています。特に最近は、企業の取締役及び監査役に就任する会計士が急増しているので、将来構想的には、取締役、監査役として仕事をする人たちの責務を明確にし、必須として学ぶべきことを、継続専門教育みたいなかたちで実践していければと。自主規制強化の一環なので、反発を買うこともあるでしょうが、前述したように、会計士は専門職業なのだから、自分たちの手できちんとしていくべきなのです。このような義務感、矜持がなければプロフェッションとはいえません。今後も、協会執行部にはいろいろな提案をしていくつもりです。
我々の行動指針は、会計人として守るべき価値観である「Public Interestへの奉仕」です。公共の利益に貢献するというのは、世界の先進国も使命として謳っています。会計士の存在は、間違いなく社会にとって重要ですし、その必要性は今後ますます認められていくだろうと思います。だからこの矜持を胸に、スキルを磨き、様々な仕事にチャレンジしていってほしいのです。これほどやりがいのある仕事は、そうないのですから。これは長くこの道を歩いてきた私の、偽らざる実感です。
※本文中敬称略
日本公認会計士協会相談役藤沼 亜起
[業界活動など] 現在、日本公認会計士協会相談役、財務会計基準機構評議員ほか、上場会社の社外取締役及び監査役多数