会計士の肖像
株式会社日本エム・ディ・エム
代表取締役社長大川 正男
米国子会社の再建が叶った2000年代半ば、今度は「日本側がおかしくなってきた」。主要事業である骨折治療機器の販売が、不振に陥りだしたのである。主たる仕入れ先だったジョンソン・エンド・ジョンソンの体制事情による新製品開発の遅れや、製品力の低下を背景に、その低迷期は長らく続いた。結果、同社との販売提携契約を終了することになるのだが、その事態は「会社存廃の危機だった」と大川は振り返る。商社からメーカーへの業態変換の道は、ここから始まった。
僕はODEV社の代表を7年務めたのですが、この問題で、後半はアメリカと日本を頻繁に行き来する生活になりました。ジョンソン・エンド・ジョンソンから「なぜ売れないのか」と言われても、「新製品がないから」という話なんだけど、協議をしてもまったくラチがあかない。販売提携契約の打ち切りは、骨折治療機器において高いシェアを占めていたビジネスを失うことを意味しますから、いうまでもなく大変な危機です。
我々はどうするのか。この先は、自分たちで製品を開発・製造し、販売する――策定したビジネスプランは、輸入商社からメーカーへの大転換です。この時、いみじくも大きな原動力となったのが、再建を果たし、メーカーとして一層の力を蓄えていたODEV社でした。仕入れていた骨折治療機器に代替するものを、日本とODEV社で共同開発するという経営計画のもと、新たなスタートに立ったわけです。
僕が4代目となる社長に就任したのは09年、まさにその実動が始まる頃でした。ジョンソン・エンド・ジョンソンとの販売契約終了までに残された時間は少なく、自社製品でどこまで代替できるか、どうビジネスを生み出していくか、迫りくるものはありましたが、幸いにして順調に、新たな骨折治療機器の販売開始にこぎつけることができた。文字どおりの日米合作、それぞれのエンジニアが一体となって叶ったのです。製品の品質の高さが評価され、売り上げは徐々に伸長し、14年に黒字化となりました。ここを境に、勢いは今も続いています。
自社製品比率は、約80%にまで上昇(15年3月期)。医療費抑制の厳しい環境にあっても、日本MDMはメーカーとして確かな足場を築いている。欧米企業の市場占有率が圧倒的に高いなか、数少ない日系企業の一社として、今後は国内だけでなく、北米やアジアなど海外での販売強化も狙う。大川は現在、「MODE2017」という中期経営計画を策定しており、次なるステージを目指しているところだ。これまで決して平坦な道のりではなかったが、「新しい事業価値やモノを生み出したい」という大川の思いは、確かに実を結び始めている。
「MODE2017」は3カ年計画で、18年以降のステップアップにつなげるための投資期間として考えています。自社製品の開発、販売力を高める投資はもちろんですが、例えば、医師によるセミナー開催など、ネットワークの基盤を強化するプランなども組んでいるところです。本当の果実は、次のステップで見込めるでしょう。
ODEV社の社長時代も、現在も、経営の中核には「中期事業計画の立案と、その着実な実行」を据えてきましたが、やはりこれが肝です。かつて僕は、日産のカルロス・ゴーン氏の手法から多くを学びましたが、その実践に会計士時代の実務経験が大きく役立っているのは間違いありません。ビジネスプランの立案は、IPO支援業務のなかでこなしてきたことだし、さらには、業務提携におけるコーポレートファイナンスの知識や、会社法などに代表される法律知識。これらが基盤になっています。
以前、大先輩である事業家に「社長の要件として一番に挙げるべきは、会計知識である」と言われたことがあるんですよ。会計に詳しくないとダメだと。聞いた時は実感がなかったのですが、今となれば、その意味がよくわかります。特に厳しい時代においては、その時々、会社としてどういう手を打つか、判断を間違えると大変なことになりますから。新しいアクションを起こす時に、そこにいくら投資して、どう回収するのか。結果として、損益計算書にどう反映されるのかが見えないと、その打ち手に内在するリスクも効果も読めない。不確定要素が多い時代です。会計知識の重要性は、今後さらに増していくだろうと思いますね。
アメリカ企業のCFOのほとんどは会計士だと思いますが、CEOにもたくさん存在しますよね。日本でも、コーポレートガバナンス・コードで「監査役についても会計・財務がきちんとわかる人材が必要だ」と明確に謳っているのですから、もっと、会計士が力を発揮する場が増えるべきだと思うのです。うちでも、弁護士とともに、M&Aなどを経験してきた会計士を社外取締役に迎えています。これからの若い会計士が何を目指すかにもよりますが、組織内会計士として活動するならば、ステージが上がるほど会計知識は重要になり、持っているスキルが必ず武器になります。そして、企業側もそれを求めている。結果的に、僕は希少な存在として今日がありますが、若手にも続いてほしいと切に願っています。
※本文中敬称略
株式会社日本エム・ディ・エム代表取締役社長大川 正男