青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
今春発覚した東芝の「不適切会計」は、またもや日本企業のコーポレートガバナンスのお寒い現状を、満天のもとに曝け出してしまった。利益のかさ上げや費用・損失の先送り、といった歴年の“不正”が、経団連会長を輩出するような、日本を代表する名門企業で発生した事実は重い。だから“氷山の一角”に過ぎないのではないかと短絡的なことは言わないまでも、同じようなことが別の会社で発覚しても、もう誰も驚かないだろう。
しかも同社は、2002年の商法改正により、アメリカ型の「委員会設置会社」の制度が導入された時、いち早くそれを導入した企業の1社だ。監査役設置会社の仕組みを廃止し、監督機能を強化した取締役会に過半数の社外取締役から成る監査委員会を組織することで、経営の執行を厳格に監視するはずであった。それにもかかわらず、“原始的な”不正は起き、鳴り物入りで登用された社外取締役たちは、それを見抜くことができなかった。
折も折、政府がアベノミクスの一環として、今年6月から企業統治の厳格化、標準化を目的とした「コーポレートガバナンス・コード」の運用を開始した、というタイミングも、皮肉としか言いようがない。「コード」の意味については、回を改めて述べるつもりだが、経済政策の目玉の一つは、「東芝事件」によって、スタートから冷や水を浴びせかけられた格好だ。
ところで、この件に関しては、当然のように、監査法人が批判にさらされた。担当企業がこれだけ大きな問題を起こしたのだから、責めを受けるのは仕方がないだろう。だが、本コラムで以前論じたように、企業が組織を挙げて“騙し”を実行した場合、現状では、外部の監査法人がその嘘を見抜くのは至難の業なのである。
言うまでもなく、会計監査は、企業が作成した財務情報について監査する。提供されたものが、すべて巧妙に仕組まれたシナリオだったとしたら、監査によってその裏にある現実を暴き出せる可能性は、極めて低い。とはいえ、監査法人として、もう少し何かできたのではないか、と口惜しい気もする。
例えば、半導体事業にしろ、電力のスマートメーター事業にしろ、同業他社がおしなべて苦戦を強いられているのに、東芝だけが好調を維持している。そうしたところに「なぜだろう?」と強い懐疑心を抱くことができたならば、不正の端緒に辿り着くことができたかもしれないとは感じるのである。
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青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員を兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。