会計士の肖像
あらた監査法人
代表執行役木村 浩一郎
新天地での初仕事は、システム監査部門の担当部長だった。まったく未経験の分野だったが、木村はそこでもまた「一からのチームづくり」に取り組み、キャリアを重ねた。09年、アシュアランス担当の執行役に。そして12年、CEOに就任する。
移籍早々、当時のCEOに呼ばれて、「SPA(システム・プロセス・アシュアランス部)に行け」と言われたのには戸惑いました。システム監査は、9割5分が会計士ではない、いわゆるIT系の人たちの集まりです。これまで仕事をしてきた人たちとは、バックグラウンドがまるっきり違う。おまけに、新法人設立に合わせて、中央青山とその子会社に分かれていたシステム監査部隊を“合体”させることが決まっていました。再び「まっさら状態」からのスタートでした。
一人で乗り込んでいって、一緒に仕事をつくっていくという点ではグループリーダーの時と同じ。ただし今度は、別のことも考える必要がありました。監査法人の主たる業務が監査である以上、その中心に会計士がいなければならないのは当然でしょう。ところがそうした環境の中で、ともすると会計士以外の人たちの中に“下請け根性”のようなものが生まれやすいのです。それでは、「監査業務で最大限の力を発揮する」ことなど不可能です。メンバーと時間を取って話し、「新人歓迎会」と称して毎月飲みに行く中で彼らに話したのは、「君たちがいないと、あらたの監査というものは成り立たない」「評価は資格の有無ではなく、どれだけ監査に貢献したかで測られるものだ」ということでした。
私が担当になった当初、80人ほどだったSPAのメンバーは、3年後には150名近くまで増えました。おかげさまで当法人になくてはならない強いプロ集団に成長してくれた、と自負しています。
監査を工夫し、海外を知り、一から組織をつくり上げ、会計士以外のプロの仕事を経験し執行役やCEOの仕事は、そうした経験で体得した、監査法人の有する様々な機能をがっちり組み合わせ、回していくことだとあらためて実感しています。
CEOとして今強く思うのは、「世界に通用する『あらた』にしたい」ということです。監査法人ではみながそれぞれ熱き思いを秘めて、正しいと思うことに全力を傾けています。言い方を変えると、「こんなに頑張っているのに、世界に通用しないはずがない」のです。例えば、仮にほかの大手監査法人に比べて知名度の低いことがネックになっているのならば、もっと、あらた監査法人というものを正しく表現する努力が必要でしょう。それはCEOにしかできない仕事なのかもしれません。
根底になければならないのが、監査の品質の向上です。では、「監査の品質」とは何か?プロフェッショナルとして、より短時間に効率よく結果を出すことも、あるいは孤独な戦いを挑む経営トップにとって価値ある相談相手となることも、広い意味での品質といえるでしょう。投資家が企業をより正しく評価できるように、財務諸表に表れにくい部分についても、企業価値の源泉という観点から一貫性をもって情報開示を行っていく、といった取り組みも、これからますます重要な意味を持ってくると考えています。
いずれにせよ、期待に応えるために克服すべき課題は山ほどある。CEOが先頭に立ってそれらに答えを出していくことこそが“世界”への挑戦にほかならない、と思っています。
若き日に抱いた「気象予報士になりたい」という夢を、木村はあきらめていない。「定年を迎えたら、久しぶりに資格に挑戦したいんですよ」。その日が来るまで、経営の、そして若い世代への思いを込めた“天気図”を、これからも一所懸命、描き続ける。
今年6月に発表された「『日本再興戦略』改定2014」に、新たに講ずべき具体的施策の一つとして「監査の質の向上、公認会計士資格の魅力の向上」の一文が盛り込まれたのをご存知でしょうか。特定の職業がこんなふうに国から期待されることなど、そうはないはずです。
目の前の仕事がつまらないと思うことだって、あると思います。そんな時に思い出してもらいたいのは、「世の中にどうして会計士がいるのか」「この資格がなくならないのはなぜか」ということ、我々が頑張っているからこそ、日本の金融資本市場が円滑に回っているのだ、ということに自覚と責任と誇りを持ち、そのうえで課せられた仕事の意味を考えてほしいと思います。
迷ったら、常に会計士を目指した頃の原点に帰る。同時に、会計士以外のお客さまや金融機関や規制当局の方々などとも進んで話をして、どんどん視野を広げていくべきでしょう。自分らしい貢献の仕方はそうやって見つけていくものではないか、と私は思います。
※本文中敬称略
あらた監査法人代表執行役木村 浩一郎
[主な役職など]
財務会計基準機構評議員、経済同友会幹事、日本取締役協会幹事、会計教育研修機構理事など多数
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