青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
連載1回目に、日本は「会計後進国」だと述べた。平たく言えば、会計というものに対して、みんなが正しい理解をしていないのである。
米国の経済社会では、会計を知らずして企業のトップには就けない。その知識がなければマネジメントなど任せられない、という単純明快な理由からだ。
翻って、我が国はどうか。ほとんどの上場企業の場合、順調に昇進し経営トップに上り詰めていくのは、直接売り上げや利益に貢献したフロント部門の人たちで、バックオフィスの経理や財務出身の社長というのは、あまり見当たらない。しかし“営業の人”には、本当の意味での会計は理解されにくい。
右肩上がりの高度成長、バブル絶頂の時期には、それでも問題は起こらなかった。ところがバブルが弾け、ピンチに陥るや、彼らトップには“何もできない”ことが露呈した。なんのことはない、経済が好調な時には、社長など誰でもよかったし、“Japan as No.1”を演出したのは、トップの力量でも何でもなかったのだ。
会計に対する無理解は、「会計のプロ=公認会計士は、監査法人に行って監査に従事するのが当たり前」という、日本固有の歪んだ“常識”を温存させる役割も担っている。世界約110カ国の160の会計専門団体がつくる国際会計士連盟(IFAC)は、その傘下におよそ260万人の会計士を擁するが、日本以外の国では、約6割が監査法人や会計事務所以外の場で生計を立てている。産業界、政・官界、研究機関、教育現場などで、その会計知識を生かし、存在感を示している人も数多い。大多数の会計士が監査法人に在籍する日本の現状は、明らかに異常なのである。
むろん、改革にまったく手をつけなかったわけではない。「2018年頃までに会計士を5万人体制にする」という金融庁の方針に基づき、06年から試験制度が改められたのも、その一つだ。しかし周辺環境はそのままに、試験だけを緩めたために、ある意味、“歪み”がさらに拡大してしまった感がある。リーマン・ショックや東日本大震災という悲劇も重なり、今や「5万人もいらない」「税理士の職域侵害はやめよう」といった、後ろ向きの話ばかり。「世の中のため、社会のために会計士を増やす」という議論は、どこかに置き忘れられてしまった。だが、これでは本末転倒のそしりを免れ得まい。
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青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科 博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会臨時委員(監査部会)を兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。
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