会計士の肖像
樫谷公認会計士事務所
所長樫谷 隆夫
樫谷の鋭い経営分析は、公的活動の様々な場でも発揮されている。代表的なものとしては、道路公団民営化への尽力があり、また、独立行政法人制度の制度設計や評価に関する委員として参加するなど、それぞれの委員会で大きな役割を担った。そして、2012年には東京電力の社外取締役に就任。ここ2年間は、同社の経営の透明化と構造改革に奔走する日々だった。
98年、私が会計士協会の常務理事として公会計の担当になったのは、ヒマだと聞いていたからなんですよ(笑)。ところが担当になった途端、忙しくなった。橋本行革のもと、中央省庁や特殊法人の再編・改革が進んだタイミングで、私は公会計のガイドラインをつくるのに追われるようになりました。猪瀬直樹前東京都知事に出会ったのは、その頃です。何だったか、私が発言した内容を猪瀬さんが覚えていたらしく、道路公団の改革やその後東電の時にも、「協力してほしい」と声をかけてくれたのです。
東電では、高コスト構造を解明し、その体質改革に携わってほしいという要請でした。確かに以前の東電は、役所以上の役所で、誰も批判をしなかったから非常に居心地のいい会社だったとは思いますよ。ただ、あの原子力事故を境に、社内全体には、さすがに問題意識が広がっていました。平たくいえば、相当反省しているということ。社外取締役のリードや猪瀬さんの旗振りなどもあり、数段構えのコストカットをギシギシやって、贅肉を削いできましたが、一方で私が注力したのは、現場と接することでした。
世間からは相当厳しいことを言われています。もちろん言われて当然の部分もあるのですが、その状態が長く続いて将来が見えないと、現場は途中で折れちゃうし、優秀な人材も辞めていってしまう。それでは、事故の損害賠償や復興といった山積の問題が先に進みません。「これから東電はどうなるのか」「役員は何を考えているのか」。私はそれを現場に伝えるために、様々な事業部や支社、発電所などをずっと回り続けました。2年間かけてフレームワークができたので、私はお役御免、やっと一区切りついたところです。
企業再生において、トンネルの出口が見えることはとても重要なのです。企業規模を問わず。だから、私たちはどのような企業でも徹底的な現場調査をし、そのうえで、絶対に達成できるシビアな経営プランを導き出す。将来が見えるように種を蒔きながら。それで債務調整を図り、出口が見えてくると、経営者や従業員は、必死になって頑張れるものなんですよ。
なお続けている公的活動は多々あるが、樫谷は現在、“本業”を深化させるべく精力的に活動している。メインにしているのは、やはり中堅・中小企業の経営コンサルティングと企業再生。税理士や弁護士、経営責任者として実務経験のあるコンサルタントらと協調し、「ブレイングループ」として高度かつ実務的なサービスを提供している。
我々は、企業のなかに人材を投入し、実行支援するスタイルを取っているので、時間も経費も、実はコストがものすごくかかるんです。もともと経営状態の厳しい企業がクライアントになるわけですから、報酬はそんなに望めませんし、決してラクじゃありません。絵を描くだけで「あとはやってください」だったら簡単ですが……でも、それは信条に反する。経営者や従業員と一体になり、我々もドロドロになって支援する。それで企業の再生、新生を見届けることができた時の喜びは、何ものにも代え難いんですよ。
発展形として、私は今、大分の中堅プラントメーカーと一緒に、インドネシア・ブンクル州の地域再生にかかわっています。良質な石炭や地熱など、とても資源に恵まれた地域なんですが、それを売ってただ儲けるというのではなく、地元の産業に転化したり、財源をもとにブンクル州を発展させていくというプロジェクト。これは、とても面白い仕事になりそうです。うちが儲かるかどうかはわかりませんが(笑)、私はすぐに夢中になってしまう。
やはりビジネスなんですよ、面白いのは。というより、ビジネスを知らなければこの仕事はできません。監査にしてもそうです。決算書は企業の実態を映すミラー。鏡の機能があるのです。決算書に何か問題があるとすれば、それはすなわち、企業の活動に問題があるということ。そこを正さない限り、決算書も正せません。その両方を見て取れなければ、監査や会計に向き合うことはできないんですよ。だから私は、『経理マンの逆襲』でも力説したように、「経理マンの前にビジネスマンであれ」と言いたい。我々が担う役割はものすごく大きく、そこに従事していることを誇りに思ってほしいのです。「超一流の会計士になりたい」。私は、そういう気持ちをずっと持ち続けてきました。具体的な“超一流”の中身は何もなかったのですが、思えば、コンサルの世界を走ってきたことで、ビジネスを知る会計士として、“超一流”の存在であることを肝に銘じてきたのかもしれません。
※本文中敬称略
樫谷公認会計士事務所所長樫谷 隆夫
[委員・役職など]
総務省独立行政法人会計基準研究会委員、内閣官房行政減量・効率化有識者会議構成員、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会委員、文部科学省独立行政法人評価委員会、内閣府行革断行評議会、日本公認会計士協会理事・常務理事、東京地方裁判所民事調停委員、内閣府官民競争入札等監理委員会委員長、内閣官房構造改革特別区域推進本部評価・調査委員会委員長など、多数の委員会や審議会の委員などを歴任
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