会計士の肖像
樫谷公認会計士事務所
所長樫谷 隆夫
当時は、中央大学の経済学部や商学部に入学したほとんどの学生が公認会計士志望という時代である。樫谷も目標どおり、会計士試験に臨むため、会計学研究会など名の立つ受験団体の門を叩いた。だが、倍率は実に100倍前後という難関ぶり。3団体に当たるも、こちらの合格はかなわなかった。
何とか入ったのは「経営会計研究会」というクラブです。会計士試験の受験科目に合わせて幅広い勉強をする会で、簿記や会計はもちろん、経営・マネジメントあり、法律ありと、非常にバランスの取れた勉強をすることができた。税理士なら税務中心ですし、弁護士なら法律中心になるけれど、会計士って“潰しの効く”勉強ができるんだと思ったものです。面白かったし、自分としてはけっこう頑張りましたね。
ただ、受験に照準を合わせると「このままでは受からない」と思ったので、2年生になってから、仲間7人で「志雲会」という新しいクラブを立ち上げたんです。ですが……当時は、学園紛争でロックアウトやストライキが続いていたので、勉強する場所がない。先輩の計らいで、私たちが毎日通ったのは文京区にある天風会館です。昼間空いている部屋を無償で提供してくださり、助かりました。そのご縁から、中村天風先生の心身統一法を体験する修練会に参加させてもらったりもしたんですよ。心と体を一致させると、人間はもっとすごい力を出せる。少し触れただけですが、図らずも、精神修行的な教えも受けることができたのです。
親からの仕送りがあったので、私はアルバイトをする必要もなく、基本は勉強一筋。送ってもらった学費は何回も遣い込みましたけどね(笑)。とにかく本を買いまくるのと、私は飯をものすごくたくさん食べるんで。学生の分際で寿司屋にも行ってたし、性分からすぐ友達の分まで払っちゃう(笑)。まぁいずれにしても、勉強に集中できる環境にあったのですから、ありがたい話です。
志雲会での勉強と並行し、樫谷は、受験団体・経理研究所内にある「CPA学生特別研究会」にも入り、会計士試験に備えたことで、4年生の時に二次試験合格。2回目のチャレンジだった。ここで、合格者たちの多くは、監査法人や会計士事務所への就職を考え始めるが、「就職は露ほども頭になかった」樫谷は、大学院へと歩を進めた。
志雲会で後輩たちの面倒を見なきゃいけなかったのと、お世話になったCPA学生特別研究会には、講師を務めることで恩返しをしたかったのです。ちなみに、私たちが結成した志雲会は、45年経った今も存続しているんですよ。それと、私は商売を見て育ったでしょ、「人から給料をもらう」という考えがもとよりなかった。自分で始めるのが自然なこと。なので、院生時代に「樫谷隆夫会計士補事務所」を開業したんですけど、周りからは「“補”のつく事務所なんて聞いたことがない」と言われました(笑)。もっとも、その後は実務補習に就き、当時あった三次試験に合格して“補”が取れたのは75年、26歳の時でした。
何の実績もないから、まずは税務業務から始めようと、親戚筋の紹介をもとに何軒か回ったんですよ。でも「開業できてよかったね」とは言ってくれても、「うちにも税理士の先生はいるから、また何かあった時にでも」と、軒並み同じ言葉が返ってくる。これは、新参者にはきついぞと。でも、当然です。すでに出来上がった市場に、同じ商品、むしろ劣った商品を売り込みに行ったって、売れるわけがありません。
そこで、企業との付き合い方、考え方を変えてみようと思ったのです。例えば税務ならば、正面から競合する申告業務ではなく、税務対策や事業承継に目を向けてみる。あるいは経営管理を軸に、別の側面から入口を狙えないだろうか――親父の商売の苦労を知っていたから、それがベースにあったのでしょう。私には、何とか中小企業のサポートをしたいという強い気持ちもあったのです。コンサルティングでいこうと決めたのは、この時からです。
最初のお客さんは、中小の水産会社。会計システムを構築するお手伝いをしたんですけど、当時のことですから、システム屋さんは会計のことがわからない。加えて、システム語で話すから、経営者と会話が成り立たないわけです。その橋渡しをするために、私も必死に勉強しまして。無事に仕組みづくりができて、お客さんに喜んでもらえた時は、すごく嬉しかったですねぇ。
樫谷公認会計士事務所所長樫谷 隆夫
[委員・役職など]
総務省独立行政法人会計基準研究会委員、内閣官房行政減量・効率化有識者会議構成員、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会委員、文部科学省独立行政法人評価委員会、内閣府行革断行評議会、日本公認会計士協会理事・常務理事、東京地方裁判所民事調停委員、内閣府官民競争入札等監理委員会委員長、内閣官房構造改革特別区域推進本部評価・調査委員会委員長など、多数の委員会や審議会の委員などを歴任
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