会計士の肖像
株式会社アットストリーム 代表取締役
アットストリームパートナーズ合同会社 理事長・代表パートナー大工舎 宏
正味10カ月ほどの猛勉強は実を結び、大学4年の夏、初めて挑んだ公認会計士第二次試験で、見事合格を果たす。卒業後は、監査法人に入って正式に資格を取得、いよいよ夢の実現へということになるのだが、大工舎はここでも“普通の選択”をしなかった。大学を出た91年といえば、バブル経済の峠は越えていたものの、いまだ学生が就職先を選べる時代。やはり複数の大手監査法人から内定を得ていたにもかかわらず、勤務先に選んだのは、「当時、国内の規模的には7、8番手」のアーサーアンダーセン大阪事務所だった。
周囲は、当然、当時の4大監査法人のどこかに行くものと思っていたらしく、相当驚かれました。「大工舎くんは変わっているね」って(笑)。
私自身、最初からアンダーセンにしようと決めていたわけではないのです。決め手の一つになったのは、面談で会った先輩方。話の中身や雰囲気が、他の法人とちょっと違ったんですよ。会計士のキャリアといえば、法人で出世を目指すか、税理士として独立するか、くらいのイメージの人が多いなか、アンダーセンではコンサルティングの仕事もある、国際的に活躍することもできる、と。それぞれの志向がバラエティに富んでいて、何より「資格を取って終わり」ではなく、「ここからスタートだ」という熱量みたいなものが伝わってきました。
実は学生時代から、資格を取るイコール「公認会計士の仕事をする」というイメージが、私にはあまりありませんでした。そうではなくて、「会計士資格を取って、経営にかかわるコンサルのような仕事がしたい」という漠然とした思いを抱いていたのです。そういう自分には、アンダーセンの諸先輩方の話がとりわけ刺さったのでしょう。
話からは、外資系ならではの実力主義の厳しさも垣間見えました。それを怖いと感じるかチャレンジしがいがあると思うのかは人によるでしょうけれど、私は怖いもの見たさで、お世話になることに決めたのです。
会計監査部門のスタッフとして入社後は、主にメーカーや流通業をはじめとする上場企業や外資系日本法人などの監査業務を担当しました。お話ししたように、もともと「会計士の仕事」すなわち会計監査を極めたい、という強い思いを持っていたわけではなかったのです。ただ、やってみると、監査というのが単に帳簿をチェックするだけの仕事ではないことがわかりました。外資系ファームだということもあったのでしょうが、業務の流れを理解したうえでリスクにアプローチしていく、という発想が徹底されていたんですね。クライアントのビジネスそのものを理解する必要があるわけで、若い頃に会社のオペレーションやマネジメントの実際を学ぶことができた。得がたい経験だったと、今でも思います。
徐々に“重要案件”も任されるようになり、監査業務でめきめき頭角を現した大工舎だったが、入社4年後の95年、27歳にして、自ら手を挙げて新設されたビジネスコンサルティング部門に異動する。「このまま、ずっと監査の仕事を続けていくのか」と自問自答した末に、出した答えだった。
監査が嫌な仕事だったのかというと、そんなことはないんですよ。正直、監査の世界で大きな役割を担うこともできたかもしれません。ただ、自分の興味が100%そこに向いていないことも、自覚していました。監査人は、顧客の決算を検査する、いわば彼らと対峙する立場です。その社会的な意義は重々承知のうえで、私自身は顧客と同じベクトルを向いた仕事がしたかった。
折も折、アンダーセンが日本でのコンサルティング事業強化の方針を打ち出し、新たな事業部をつくったのは幸運でした。93年に合併した朝日監査法人(当時)とアンダーセンの双方からコンサルを志向する人間を集めたのですが、その異動メンバーに加えてもらうことができたのです。
実際にコンサルをやってみて、自分にはやっぱりこの仕事が向いている、と実感しましたよ。アドバイスの結果、業務改善が実現すれば、顧客の収益はアップします。経営者からは、素直に「あなたに頼んでよかった」と感謝される。「先生」とは呼んでもらえても、心から感謝されるという場面はあまりない、監査との違いです(笑)。
また、コンサルティングの領域で、取り組みの幅をもっと広げていきたいとも考えるようになりました。最初の頃は、会計士の知識を生かした原価管理、管理会計制度の設計といった業務からスタートしたのですが、その後、大企業を中心にBPRの手法が一世を風靡し、アンダーセンもその分野の拡大に舵を切ったのです。ひとことで言えば、業務改革のためのシステムの選定・導入をコンサルするというわけですが、「まずシステムありき」の業務には、あまり食指が動かなかったんですね。戦略の策定とか、業績評価の仕組みづくりといった企業改革や組織変革とかに直接かかわりたい、と。
そこで、再び手を挙げたんですよ。「システムではなく、ミッションを起点にした組織変革のサービスを提供する新たな事業がやりたい」と。ベースになったのは、アンダーセンの海外研修で学んだ、「企業はまずミッション、パーパスを明確にして、そこから具体的な活動計画、数値目標を設定すべきだ」という方法論です。
システムの仕事は、数億円規模の大プロジェクトになります。一方、新設され、私がリーダーを務めたチームの案件は、それとは2桁ぐらい違う小ぶりなものでした。ビジネスとして考えるのならば、決して“賢い選択”とはいえないでしょう。でも、私は自分が面白いと思えるもの、お客さんに心から喜んでもらえる仕事をチームのみんなとつくりたかった。余談ながら、私はこのミニチームに、法人の“本業”と違うことを事業にしているという意味で、「アザーズ(Others)」と命名しました(笑)。
株式会社アットストリーム 代表取締役 アットストリームパートナーズ合同会社 理事長・代表パートナー大工舎 宏
◎その他の現職
大研医器株式会社 社外取締役
甲南大学経営学部 非常勤講師