The CFO –ニッポンの最高財務責任者たち-
株式会社串カツ田中
取締役 管理部長坂本 壽男
入所した新日本監査法人(当時)では、比較的小規模の企業を担当する監査第3部に配属される。「私にとってはラッキーだった」と坂本氏は言う。
「大企業の担当になると、新人は3年ぐらいそこの現預金ばかりやるというのが普通でしょう。でも、10社ほどの担当を持たせてもらい、かつ幅広くその会社を見ることができたのです」
3年も経つとインチャージを任されるようになるのだが、その頃には大手の外食チェーンも担当することに。その仕事が、この業界に興味を抱くきっかけとなった。
「調べてみると、業務の流れはシンプルなのに、各社が知恵を絞っていろんな工夫をしているんですね。業界の特徴なのか、会う人がみんな『この会社をよくしよう』と〝まっすぐ〞なところにも、好感を持ちました」
どれほど引き込まれたかは、法人内にそれぞれの企業のノウハウなどを集約する「外食産業研究会」を立ち上げたことでもわかろうというものだ。
入所5、6年後には、そんな坂本氏に、また一つ転機が訪れる。IPOを目指す企業などを獲得する戦略マーケッツ事業部に、「一緒にいかないか」と上司から声をかけられたのだ。
実は会計士資格の取得は、自らのルーツでもある「自営業をやる」という思いを実現する手段でもあった。そしてそれが、「独立して会計事務所を開く」という目標であることも、この頃には明確になっていたのである。「そろそろ決断か」と考えていたタイミングでの提案だったが、坂本氏はそれに乗る。
「IPOを考える企業を探してきてショートレビューを行い、その後の支援をするわけですが、やることが決められている通常の監査業務と違って、仕事の自由度が高いわけです。いろんなことが学べたし、印刷会社、証券会社、証券取引所などに、たくさんのコネクションもつくれた。心身ともに厳しい職場ではありましたけど、今に生きる多くのものを得ることができました」
坂本氏は、ここでも外食チームをつくり、専ら飲食業関連をターゲットに精力的に仕事に取り組む。その中の一社が、串カツ田中だった。
ただし、この時は、後に同社のCFOに迎えられるなど知る由もない。入所から10年が経過した14年末、独立を決意し、周囲にもその意向を伝える。
「『坂本壽男会計事務所』という名刺をつくり、パソコンも新調していたんですよ」
そんな折も折、串カツ田中の東京・五反田の店舗で、同社の貫啓二社長とばったり出会う。そこで交わされたのは、次のような会話である。
「独立するんだって?」「はい」「そんなに甘くないよ。IPOしたいのでCFOを探しているんだけど、よかったらうちに来ない?」
独立しか頭になかったはずの坂本氏だが、思わぬオファーには惹かれるものも感じていた。
「確かに一時的に収入ゼロになるわけですね。当時、子供が3人いて(笑)。妻に話したら、『求められているのなら、IPOだけでも頑張ってみたら』と。それもそうだな、と当社にお世話になることにしたんですよ。昔から『こっちだ』と思ったら、悩む前に足が出る人間なんです、僕は(笑)」
株式会社串カツ田中取締役 管理部長坂本 壽男