The CFO –ニッポンの最高財務責任者たち-
株式会社イグニス
取締役CFO山本 彰彦
入社してすぐに着手したのが、多くを外注に頼っていた管理部門の構築と、資金調達のオプションを広げるためのIPO準備である。銭社長のオファーは「最短でやってほしい」だった。
「具体的に聞いたら、『1年半で』と。僕自身、監査法人時代にIPO関連業務の経験はありませんでした。教科書には、たしか『5年かかる』と書かれていたはず。で、『それはちょっと』と言いかけたら、『ベンチャーに不可能はない』とたたみかけられて(笑)。考えてみたら、法人時代に担当していたのは、それなりの大企業です。自分の中にベンチャーの感覚というものもなかったことに気づきました。それで、『無理だ』は、実際にやってみてから言おう、と腹を括り、とにかく準備をスタートさせたんですよ」
結局、“教科書”の定義をはるかに短縮し、ちょうど2年後の14年7月に、東証マザーズへの上場を果たした。
「IPO準備というと、どういうわけかバックオフィスがフォーカスされます。もちろん、僕は、寝る間も惜しんでやりましたが、うまくいったのは、その間、事業が力強く伸びたからこそ。事業サイドのとてつもない努力があって、かつ運にも恵まれた結果です」
上場企業となった現在、特に重きを置くのが、IRの強化だ。
「“マザーズ1年生”の段階では、継続的にお金を調達するオプションをさらに強化することが、CFOの重要な使命だと思っています。そのためには、IRをしっかりやって、株価にも反映させないと。ところがこれも、教科書的にやっていたのでは限界のあることが、上場から約10カ月やってみてわかりました。アピールすべき相手は、大企業と僕らのようなベンチャーとでは、まったく違うのです。そのあたりの軌道修正も図りつつ、企業価値をさらに高めていきたいですね」
「CFOの仕事は、会社の成長のフェーズに合わせて変わる」と語る山本氏だが、その職が仕事のゴールだとは、考えていないようだ。
「会社の中心にいるのは事実。でも、“真ん中”じゃないんですよ。例えば、会社の予算達成が厳しい時に、『じゃあ自分があと2億円つくる』とは言えないわけです。自分が頑張って、売り上げを立てられるような……要するに、フルコミットで事業がやりたいわけです。独立したいか、ですか?まあそれでもいいけど、当社の資本で子会社をつくり、そこで連結に貢献できるような事業ができたら最高ですね。実は、おぼろげながら、ビジネスのプランはいくつか温めているのです」
そんな山本氏に、若き会計士へのアドバイスを聞いた。
「言葉は悪いですけど、『腐っても会計士』なんですよ。勉強したことや経験が、そのまま市場価値になることが、外に出てみるとよくわかります。そこで迷っているのだったら、チャレンジすべき。失敗してもいいじゃないですか。失敗が糧になれば、また価値は上がるのだから」
株式会社イグニス取締役CFO山本 彰彦