大原大学院大学 会計研究科 教授
青山学院大学 名誉教授博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
会計監査にも深くかかわる企業の内部統制をめぐる問題については、これまでも何度か私見を述べてきた。しかしながら、内部統制の機能不全が原因とみられる不正、不祥事が後を絶たないのは周知のとおりである。加えて、最近クローズアップされてきた論点に、「子会社が問題を起こした時の親会社の責任」がある。
SOMPOホールディングス(子会社損保ジャパンでの自動車保険金不正請求など)、JR九州(同じくJR九州高速船での高速船の浸水隠蔽)といった事案に加え、昨年来、世間の耳目を集めたのが、フジテレビの事件(元タレントによる人権侵害)だ。
この問題では、当時の社長らが、女性社員の性被害を知りながら適切な対応を怠り、事実を隠蔽しようとしたことも明らかになる。ただ、同社から真相の究明や再発防止に向けた方策などについて納得できる説明はなく、番組CMから撤退する企業が相次ぐといった事態を招いた。不祥事を起こした“当事者”なのだから、そうした批判にさらされるのは当然だろう。
ところで、同社は上場企業であるフジ・メディア・ホールディングス(FMH)の子会社である。こうした場合、親会社は「子会社の起こしたことだ」「我々に責任はない」で、済まされるのだろうか。
会社法では、取締役会に対して「当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(第362条4項6号)を求めている。経済産業省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2019年6月)は、より明確に「親会社の取締役会は、グループ全体の内部統制システムの構築に関する基本方針を決定し、子会社を含めたその構築・運用状況を監視・監督する責務を負う」と、親会社(の取締役)の責任に言及している。
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大原大学院大学 会計研究科 教授青山学院大学 名誉教授博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。青山学院大学経営学部教授、同大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、名誉教授に。 2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授。日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員等を歴任し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。
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