
スペシャルインタビュー
青山学院大学名誉教授 博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二

2014年から本誌の巻頭コラム「オピニオン」欄で、その知見と経験に基づく提言を行われてきた八田進二・青山学院大学名誉教授が、このほど大原大学院大学の退職に伴い、長く携わってきた教育の現場から退かれることになりました。コラムでの発信も今号で最後となります。一貫して会計プロフェッションの社会的使命、その履行の裏打ちとなる〝倫理〟について説き続けた八田氏に、監査の課題、公認会計士へのメッセージを伺いました。
ここ数年、企業や団体等の不祥事が明るみに出るや、新聞、雑誌などのメディアから、頻繁にコメントを求められるようになった。数えてみたら、昨年25年の1年間に受けた関連取材は、150件を超えた。さながら「不祥事対応コメンテーター」である。
会計不正に限らず、検査・品質不正、データ改竄、詐欺的な営業行為(プルデンシャル生命の一件が典型だ)など、不適切事案の中身は様々ではあるが、そこに通底するのは、〝組織のガバナンス不全〟だ。透明性の高い情報開示といった、健全な企業経営を担保する仕組みが十分機能しない結果、優良企業と信じられていた会社でさえ、信じがたい不正に手を染めることになる。
監査論を専門とする私が、そうした企業の内部統制、ガバナンスに守備範囲を広げていったのは、ある意味、必然だったように思う。会計・監査というものは、あくまで出てきた結果の〝後追い〟である。結果を精査し、市場や投資家に対する〝お墨付き〟を与えるのは重要な任務だが、結果自体に対して行われる不正については、なす術がない。会社が組織ぐるみの隠蔽を図ったりした場合には、それを発見すること自体、困難なこともある。
企業活動、ひいては経済社会の健全な発展のためには、監査の品質向上とともに、なぜ不正がはびこるのか、という根っこの部分に目を向ける必要がある――。その思いが確信に変わったのは、エンロン、ワールドコムなどの相次ぐ会計不正に対応した02年の米SOX法の制定だった。内部統制報告書の作成や公認会計士による内部統制監査などを義務づけ、違反した経営者に厳罰を課すことを定めた法律の施行によって、同国での企業の不正は、確かに減少したのである。
そもそも、経済社会における不正、不祥事の類の大半は、〝事実に即した情報を開示する〟という会計的視点の欠如からもたらされる、と言っても過言ではない。その点にスポットを当てて研究生活を送ってきた私に、企業の不祥事に関する解説依頼が殺到するのは、偶然ではないのだろう。
「Opinion」などでも折に触れて述べてきたのだが、ここで言う「会計」は、単なる計算合わせの「銭勘定」とは違う。Accountingには、その語義となったaccount for~、すなわち「説明する」「責任を持つ」という含意がある。
会計にかかわるすべての人間が、常にこの自覚を持つことは重要だ。会計報告書によって活動の実態を報告すべき企業の経営者や作成の担当者、第三者の立場でその正しさを判断する監査人は、なおさらである。
ところで、私はこのように会計にかかわる人たちを、説明責任を履行する職能という意味を込めて「アカウンティスト(Accountist)」と称したらどうか、と提唱している。つまり、エコノミストやアナリストのように一般化するようになれば、社会の会計に対する理解もずっと進むと思うのだが。
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青山学院大学名誉教授 博士(プロフェッショナル会計学)八田 進二
1949年、愛知県生まれ。新潟県立新潟高等学校卒業。慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。青山学院大学経営学部教授、同大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、名誉教授に。2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授(26年3月退職)。日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員等を歴任し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。| vol.81の目次一覧 |
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