青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
2016年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」の報告書を受け、3つの具体的作業が始まった。監査法人のガバナンス・コードの策定、監査法人の強制的ローテーションの調査、そして、監査報告書の透明化の議論である。このうち、3番目の“透明化”については、現在、企業会計審議会の監査部会で議論が進められており、関係者による具体的な試行結果も報告されている。私自身、監査部会の委員としてこの議論に参加しているが、結論を言えば、「今回の“透明化”には幾つかの課題がある」という立場である。
そもそも“監査報告書の透明化”とはどういうものか?それは、ほぼイコール“監査報告書の長文化”にほかならない。現行の監査報告書は、短文式である。基準などに定められた様式に則り、書かれているのは結論とそれを支える事実のみ。しかし、情報化社会の進展もあって、「監査のより詳しい中身を知りたい」というニーズが高まった。「会計監査はブラックボックスで、何をやっているのかわからない」という批判も高まる傾向にある。従って、監査で何をやって、監査人はどう判断したのかを、もっとつまびらかにしようではないか――というのが、新様式導入の趣旨だ。
この議論が進む背景には、国際的な動向も大きく影響している。国際監査・保証基準審議会(IAASB)が定めている国際監査基準には、すでに、監査人が着目した重要なリスクなどの「監査上の主要な事項=KeyAudit Matters(KAM)」に関する情報開示が盛り込まれた。それを受けて、EUなどで透明化の導入が始まっており、米国でも同様の実務の導入が採択されることとなったのだ。
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青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、金融庁企業会計審議会委員、金融庁「会計監査の在り方に関する懇談会」及び「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会」のメンバーを兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。