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「第二期 第6回基調講演 女性専門職業人が判断を下す時の課題」
参議院議員・公認会計士・税理士
竹谷 とし子
藤沼塾レポート
IFAC・JICPA
元会長藤沼 亜起
医師、弁護士、税理士と同じプロフェッションでありながら、公認会計士は、何をしているのか理解されにくい職業だ。理解どころか誤解をされやすい。監査人は、監査の対象である企業から報酬を受け取る。「金を貰っていて、どこが“独立”なのか」という疑念を生みかねないのだ。だからこそ、「常に品位を保持し、その知識及び技能の修得に努め、独立した立場において公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」(公認会計士法)職責を帯びている。
以上を改めて確認したうえで、その核となる専門職業人の判断=Professional judgementとはどういうものか、私見を述べたい。“監査の判断”というとまず結論に目が行きがちなのだが、実は監査契約の更新あるいは新規契約締結時から始まって、監査計画の策定、監査手続きの実施というプロセスの全過程で、その的確な実行が求められている。期中監査、期末監査では、それぞれやることがある。経営者との討議で相手の陳述を鵜呑みにしていれば、とんでもない“爆弾”を見落とすかもしれない。最終的な監査意見は、そうした判断を積み上げたうえの結果であることを、再認識すべきだと思う。そうした過程に疎かな点があると、最終判断を誤る危険性があるのだ。
判断を誤る要因の一つが、監査人に影響を与える“バイアス”である。米国のM・H・ベイザーマン教授らは、それを①クライアントに対する親しみ=Familiarity、②予測しがたいリスクよりも目先の利益を求める「摩擦の回避」=Discounting、③財務上の小さな不備に慣れたことによる重大な歪みの見落とし=Escalation――の3つに定式化している。
また、IFIAR(監査監督機関国際フォーラム)は、各組織レベルで生じる可能性のあるバイアスについて、監査人レベルは「資料・説明を批判的に見ないなどの判断上の罠」、監査チームレベルは「集団的意志決定の問題」、事務所レベルでは「監査人の選任を監査報酬の支払者がするという利益相反」――が考えられると指摘している。自分たちの周りにそうしたリスクが潜んでいることは、心に銘記すべきだろう。
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IFAC・JICPA元会長藤沼 亜起
ふじぬま・つぐおき/1968年、中央大学商学部卒業。アーサーヤング公認会計士共同事務所、太田昭和監査法人(現新日本有限責任監査法人)代表社員などを経て、2000年、国際会計士連盟(IFAC)会長、04年、日本公認会計士協会会長を歴任。08年、中央大学大学院ビジネススクール特任教授、10年4月、IFRS財団トラスティー評議員会副議長。現在、日本公認会計士協会相談役、財務会計基準機構評議員ほか、上場会社の社外取締役及び監査役多数。