大原大学院大学
会計研究科教授・博士八田 進二
昨年7月、金融庁は、「監査法人のローテーション制度に関する調査報告」(第一次報告)を公表した。私自身、本調査の一翼を担っていることから、今回は、この制度(MandatoryFirm Rotation=MFR)を論じてみたい。
最初に申し上げておけば、個人的には、MFRの導入に積極的に賛成する立場にはない。現行の監査体制をドラスティックに変えた場合、蓄積されたノウハウも人間関係も消えて、一からの出直しになる。予期せぬ混乱の起こる可能性も否定できない。アメリカでは、相次ぐ会計不祥事を受けて2002年にSOX法ができる過程で、一部からMFR導入が主張され、賛否の議論になった。
ならば、と会計検査院が1年かけて調査を行い、提出した報告書の結論は、ひとことで言えば「いい面もあるが、悪い面もある」というものだった。当時のアメリカでさえ、「もう少し考えよう」ということになったのである。
私が実際に調査のために訪米したのは、今から2年前の16年の秋だった。ところが、かの国では13年に、なんと連邦議会の下院が、「混乱を招くMFRの導入をしてはならない」という決議を行っていた。“少し考えた”アメリカは、結局MFRをやらないことにしたのだ。
他方、ヨーロッパでは、逆に16年に、EUが制度の導入を決めた。欧州に出向いた調査団の報告は「現場で混乱は起こっていない」というものだったが、ローテーションは10年単位のスパンとされていた。“交代”はまだ先の話なのだから、混乱が起こっていなくて当然だろう。
ちなみに昨年公表されたのは、あくまで「第一次報告」である。本来ならば、さらに検討がなされてしかるべきだと思うのだが、1年経った今もそうした動きは見られない。やはり「アメリカの脱落」が、規制当局に対しても何らかの影響を与えているのかもしれない。
この記事の続きを閲覧するには、ご登録 [無料] が必要です。
大原大学院大学会計研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。青山学院大学経営学部教授、同大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、名誉教授に。2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授。日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員等を歴任し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。