大原大学院大学
会計研究科教授・博士八田 進二
今年4月、私は新聞のインタビューに答えて「米エンロン事件のような不正会計が日本でも10年以内に起きるのではないかと懸念している」と答えた。実はこれは、2006年頃に「今から20年以内に起きるのではないか」と指摘した、私の以前からの持論である。早いもので、あれから10年が経ってしまった。
巨額の粉飾決算に大手会計事務所の関与が指摘されたエンロン事件が発覚したのは、01年のことだ。その後、芋蔓式に公開企業の不正会計が露呈するのだが、それらの監査を担当していた「働き盛りの40代」が公認会計士になったのは、遡ること20年前の1980年頃である。
当時米国は、「会計士受難の時代」だった。企業の倒産や不正を事前に察知できなかったことを理由に、監査担当事務所が相次いで提訴され、巨額の損害賠償で自己破産するパートナーなどが続出したのだ。そのため、会計士になりたいという前途有望な若者は減り、その結果、会計士試験の合格者のレベルは低下した。
何を言いたいのか、もうおわかりだろう。巨額の損失隠しに監査人が加担するような事態は、監査業界における20年前の“需給環境”に起因する会計士の質の低下が表出したものだった。それが私の見立てなのだ。
日本に話を戻すと、では06年に何があったのか? 答えは、公認会計士法の改正による会計士試験の簡素化=試験合格者の増加である。会計士の不足を主な理由にした改革で、4000人を超える合格者を出した年もあった。むろん「新試験」で合格した会計士のすべてがレベルが低い、などというつもりはないが、これだけ数が増えたらそういう人たちのウェートが高まるのは、理の当然だろう。ここ数年は1000人超で推移しているものの、受験者自体が減り、1万人を大きく割り込むような状況にあることを考えると、“質の低下”は進行中だと考えなければならない。
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大原大学院大学会計研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。青山学院大学経営学部教授、同大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、名誉教授に。2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授。日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員等を歴任し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。