- vol.50
-
「第二期 第6回基調講演 女性専門職業人が判断を下す時の課題」
参議院議員・公認会計士・税理士
竹谷 とし子
藤沼塾レポート
金融庁
総括審議官佐々木 清隆
私が監査意見書というものに疑問を抱いたのは、1998年に発足した金融監督庁検査部の一員として、都市銀行の集中検査を進める過程のことである。北海道拓殖銀行、山一證券などが破綻した後の、未曽有の金融危機のさ中に行われた検査で読んだ意見書には、どれにも“同じこと”が書いてあった。銀行の“監査”は当時の大蔵省が丸抱えでやり、監査法人のチェックは形式的なものにとどまっていたからだ。銀行やそれを“監督”できなかった大蔵省は、激しいバッシングを受けた。それは当然のこととして、まともな監査をやらなかった監査法人がまったく批判されないのも、私には不思議だった。
銀行を追い込んだのは、膨れ上がった不良債権だった。それを覆い隠すために彼らが多用したのが「飛ばし」である。例えば外資系金融機関のデリバティブ商品を購入して当座をしのぐ。その手の取引にも、会計士や弁護士の意見書が添えられるわけだが、論点を逸らして「問題なし」と語る類の作文であることがわかってきた。顧客との“阿吽の呼吸”で作成されたことは明らかで、プロとしての倫理、正義感はどこに行ってしまったのか、と強く感じたものだ。
2005年、私が証券取引等監視委員会に籍を置くようになった頃にも、ITバブルの崩壊も相まって、証券市場の問題が噴出した。例えば海外のタックスヘイブンにペーパーカンパニーをつくり、そこに第三者割当増資を行って現金を手に入れる、という不公正ファイナンスの横行である。残念ながら、このスキームにも日本の監査法人や弁護士事務所が関与していた。ちなみに、そういった“悪事”を繰り返すのは一握りの専門家だ。私は彼らを「不良会計士」「不良弁護士」と命名した。
この記事の続きを閲覧するには、ご登録 [無料] が必要です。
金融庁総括審議官佐々木 清隆
ささき・きよたか/1983年、東京大学法学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。98年に金融監督庁(現金融庁)検査部(局)総括補佐、企画官。金融機関の不良債権問題を担当し、2005年から証券取引等監視委員会特別調査課長。カネボウやライブドア事件など粉飾決算事件に携わる。17年から現職