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「第二期 第6回基調講演 女性専門職業人が判断を下す時の課題」
参議院議員・公認会計士・税理士
竹谷 とし子
藤沼塾レポート
KKRジャパン会長 JPX元CEO
斉藤 惇
私が証券アナリストとして日本株の売り込みにニューヨークに渡ったのは、1972年である。当時のアメリカは、長く続いたベトナム戦争で経済が疲弊し、5番街の道路は穴ぼこだらけという状況だった。 しかしそんな中で市場関係者たちは、企業価値=エンタープライズバリューを正確に捉え、それによって決まる市場価値、 すなわち株価を梃子にして、企業活動、産業構造を合理的かつ競争力のあるものに転換させようというチャレンジを始めていた。 そういう彼らのプロフェッショナリズムは、その後の私の原点となった。
近年の日本経済について、「デフレに取りつかれている」といったマクロ的な表現がされる。だが、ダメな原因は「マクロ」にはないというのが私の考えだ。 個々の日本企業が国際競争力を喪失し、生産性を劣後させてきたことこそ、デフレの真犯人なのである。
例えば、1人当たりGDPは米国のみならず英国、ドイツ、中国、シンガポール、韓国などが軒並み右肩上がりなのに対して、ひとり日本は2015年にマイナスに転じた。 ここでポイントになるのがTFP(全要素生産性)である。実は、GDP成長に対する労働投入量の寄与度はそれほど高くはなく、牽引力になるのは資本投入量とTFPなのだ。 TFPとは、平たくいえば経営スタイルとか技術開発だとか、人と資本を除いた生産性改善の要素であり、ここが伸びないために“右肩下がり”を余儀なくされているのである。
そうなる原因も一つではないが、日本ではいまだに客観分析による企業価値の発見が不十分であることは、指摘されなければならない。 部門別の価値分析や成長分析が圧倒的に弱く、結果的に「ゾンビ部門」を引きずって、企業全体の価値を下げているような例は、枚挙にいとまがない。 ROE(株主資本利益率)といった指標を語ると、「数値で経営はできません」と堂々と反論する政治家や経営者がたくさんいるのも、私には驚きだ。 彼らに「では何で経営するのですか?」と聞くと、なんら解答を持ち合わせてはいない。
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KKRジャパン会長 JPX元CEO斉藤 惇
さいとう・あつし/1963年、慶應義塾大学商学部卒業。野村證券株式会社副社長、住友ライフ・インベストメント株式会社最高経営責任者、株式会社 産業再生機構社長、株式会社東京証券取引所代表取締役社長、株式会社日本取引所グループ取締役兼代表執行役グループCEOなどを歴任。 2015年、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)日本法人会長に就任。16年、旭日大綬章を受章。