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「第二期 第6回基調講演 女性専門職業人が判断を下す時の課題」
参議院議員・公認会計士・税理士
竹谷 とし子
藤沼塾レポート
日比谷パーク法律事務所
代表パートナー・弁護士久保利 英明
我々弁護士は、法廷で自らの信念、構築した理論と証拠に基づいて主張を行う。その主張が認められることもあれば、そうでないこともある。白黒の判断を下すのは、あくまでも裁判官なのである。その判決、決定が“司法判断”となる。これに対して、公認会計士は最終判断者である。そこが、弁護士との大きな違いだ。
このように自ら判断できる会計士は、幸せでもあり不幸でもあると私は感じる。本当にその判断が正しかったのか、測れるのは自分だけだ。司法判断=判例のように、いわば公共財として長く自由な評価、批判に晒されることも、基本的にない。少なくとも、そういうプロセスでの開示により透明性を担保する仕組みは、監査にはない。
だからこそ、会計士には、監査の透明性確保のために格段の努力が求められるはずだ。にもかかわらず、例えば監査法人が企業から守秘義務を課されたりするのは、どういうことだろう。東芝の決算に関しては、監査法人が「内部統制は不適切」ながら、「限定付適正意見」を表明した。「適正意見」が出せるのは、内部統制が機能しているという前提があるからではないのか。こうした疑問に対する答えは守秘義務の壁に阻まれ、ようとして知れない。
東芝問題は、会計監査のガラス細工のような“脆弱性”をあらためて浮き彫りにしたように感じる。こうした事態が続けば、「何のための監査なのだ」という話が拡大する懸念がある。会計士の社会的地位も、どんどん棄損される可能性がある。あえていえば、この件については金融庁も、会計士協会も、東芝の特設注意市場銘柄からの指定解除を行った自主規制法人も、これといった知恵を出せずにいる。特定の監査法人を悪者にして幕引きを図っているようにも見えるというのは、うがちすぎだろうか。
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日比谷パーク法律事務所代表パートナー・弁護士久保利 英明
くぼり・ひであき/1968年、東京大学法学部卒業。ヨーロッパ・アフリカ・アジアを放浪した後、71年に弁護士登録。第二東京弁護士会会長、日弁連副会長などを歴任。現在は金融庁総務企画局参事、株式会社日本取引所グループ社外取締役なども務める。コンプライアンス問題の権威として知られ、一票の格差是正運動にも参加。専門分野は、コーポレートガバナンス及びコンプライアンス、M&A、株主総会運営、金融商品取引法、独禁法等企業法務、知的財産権など。