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「視野を広げ、「これがやりたい」を基点に、仕事を選ぶべき。公認会計士の専門性を生かせる活躍の場は数多くあるのだから」
株式会社アットストリーム 代表取締役
アットストリームパートナーズ合同会社 理事長・代表パートナー
大工舎 宏
会計士の肖像
TOMAコンサルタンツグループ
代表取締役 理事長藤間 秋男
この停滞期は10年間に及んだという。「自分を変えなければいけない」と考えるようになった藤間は、半ば、藁にもすがるような思いで様々なセミナーや研修会に出るようになる。その一つ、「ビジョン経営沖縄セミナー」が突破口となった。かの松下幸之助翁から、長年にわたり直接薫陶を受けた木野親之氏が講師を務めるセミナーで、藤間は、ここで経営理念の重要性を真に学んだのである。
「経営成功要因の50%は、経営理念の確立と浸透にある」。これは、松下幸之助さんによる経営成功要因の筆頭原則で、実際、講師の木野先生も、この原則によって倒産寸前だった会社の再建を果たされた。セミナーで目の覚めるような教えを受け、僕はこれに懸けてみようと思ったのです。
実は、それまでにも経営理念はあったんですよ。でも、それは外部のコンサルティング会社がつくったもので、どこか飾り物的だった。だから、自分で新たに確立しようと経営理念塾にも通い、思いを集束させていったのです。その浸透に努め、以降、TOMAグループの経営理念は、幹部とも話し合いながら改定を重ねてきましたが、文言の冒頭にある「明るく・楽しく・元気に・前向き」が社員に浸透し始めてからは、明らかに経営が変わっていきました。再び、売上高や社員数が伸び始めたのは2004年あたりから。停滞期に入ってから10年以上と長い時間はかかったけれど、ぶれない経営理念を核にしたことで、会社が、そして僕自身が生まれ変わったのは確かです。
社員を信じて任せる。そうして人が育てば、会社は社長の器以上のものになります。今では、経営計画書も組織づくりも幹部に任せていますし、昇給やボーナス査定などについても、僕は報告を受けるだけ。つい先日も、役員会で僕が「運動会をやりたい」と言ったら、侃々諤々で。「それだけでは意味がない。研修の一環としてやるのなら考えられなくはない」とか言われちゃう。昔なら、そういう時は「やる!」の一言でおしまいだったけれど、今はすべて合議制。僕の意見が却下されることも珍しくなく、正直な話、カチンとくることもあるんですけどね(笑)
藤間には、かつて社員がなかなか定着しなかったことに対する猛省がある。だからこそ、現在は様々な機会を介して社員たちの声に耳を傾け、最大限、“任せる経営”を実践している。声を聞く仕組みは多角的で、その代表的なものに、外部の会社に委託して年2回、全社員を対象に行うアンケート調査がある。集計・分析された「社員満足度」をその都度真摯に捉え、課題があれば労を惜しまず改善を重ねていく。「社員・家族の幸せづくり優先が、お客様の幸せづくりへの近道」。これがTOMAグループの人財育成理念だ。
まずは社員と、その家族。そしてお客様。普通、順番が逆でしょ?ある時、クライアントから「社員のほうが大事なのか」と言われたことがあるんですけど、もちろん大切なのは両方。ただ、社員自身と家族が幸せでなければ、社員はお客様を幸せにはできません。経営理念と社員の重要性を悟り、実践してきたからこそ、現在のTOMAグループがあると思っています。
アンケートのほかにも「自己申告書」というのがあって、そこには、上司や同僚に対する不満、転属希望など、何を書いてもらってもいい。また、階層別に要望を聞く会もあれば、僕だけが同席する社員たちとの昼食会もあります。前期・後期に分けて13回ずつ。全員の目標やTOMAに対する要望を直接聞ける、非常に貴重な機会だと捉えています。
一方、お客様に対するアンケート調査も同様に毎年やっていますが、これで現状を正しく把握することができる。社員、顧客に対して、日本で一番声を聞いている会社かな……という自負はありますね。しつこいくらいに、そしてお節介なくらいに。時折、副理事長たちから「聞きすぎです」と言われたりもするけれど、この声が、経営理念を実践する一番の近道なんですよ。たまにストレスが溜まって、僕の酒量が増えるのが問題だけど(笑)。
TOMAコンサルタンツグループ代表取締役 理事長藤間 秋男
[主な保有資格] 公認会計士、税理士、中小企業診断士、行政書士、AFP、賃貸不動産経営管理士、M&Aシニアエキスパート、登録政治資金監査人、スキューバダイビング、小型船舶2級、日本さかな検定3級、ほめ達検定3級
[主な著書] 『どんな危機にも打ち勝つ100年企業の法則 老舗企業に学ぶ「儲かる仕組み・人をつくる仕組み」』(PHP研究所)、『1/4は捨てなさい! 今のままなら、来年は倒産しますよ』(ダイヤモンド社)、『「百年企業100選」未来に残したい老舗企業』(共著・東方通信社)、『ヒト・モノ・コトを次代へつなぐ「事業承継の教科書」』(TOMAコンサルタンツグループ著・PHP研究所)など