青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
前回、アベノミクスの政策ブレーンの一人、経営コンサルタントの冨山和彦氏との対談において、彼が会計の重要性を想像以上に強く認識されていたことを知った、という話をした。冨山氏の話でもう一つ印象に残ったのが、「日本の企業だけでなく、大学においてもG型とL型に分けるべきだ」という主張である。Gは“グローバル”、Lは“ローカル”。前者は世界に通用する人材の育成に励み、後者はなにがしか手に職をつけられるようなローカルな人材育成に特化する。どこもかしこもその両方を追い求めてどちらも中途半端になっているのを憂えて、機能分化したらどうか、というのだ。
冨山氏は、文部科学省の有識者会議などでも同様の発言を行っているが、それに対して、「学歴差別を煽るものだ」といった批判も数多く寄せられているという。確かに、L型大学では、「経済・経営学部は、マイケルポーターやケインズの理論ではなく、簿記・会計、弥生会計ソフトの使い方を教える」という言い方は、“過激”にも聞こえる。だが、その主張の本質的な部分に目を向ければ、十分傾聴に値する提言だと思う。
「G型大学・L型大学」は、「G型企業・L型企業」に対応する。自動車、電機、製薬、IT業界のように海外に出て「外貨を稼ぐ」のがG型企業。他方、L型企業は物流、飲食・宿泊・小売、医療・介護など、地域に根差した活動を行う。地方創生をも射程に日本経済活性化のためには、日本の産業構造をそのように分類することが重要であり、従来のような“大企業・中小企業”という括りでの発想ではダメだ、という考え方が根底にはある。
その論に従うことで、今の日本の高等教育が抱える問題の一端も整理できる。すなわちG型企業は、文字どおり世界市場でガチンコの勝負を強いられるわけだから、それに耐えうる少数精鋭の専門的なグローバル人材が必要になる。それに対してL型企業のほうは、明らかに労働集約型で、慢性的な人手不足に陥りやすい。それぞれ求められる知識もスキルも別物のはずなのだ。それにもかかわらず、画一的な高等教育を施す現実が、「大学を出ても何もできない」若者を量産させているのは、紛れもない事実であろう。
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青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員、金融庁「会計監査の在り方に関する懇談会」メンバーを兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。