経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)
顧問金児 昭
過日、日本経済新聞に、「公認会計士試験に合格しても就職できない人が、過去の未就職者と合わせて、今年は1500人に達する可能性がある」という記事が掲載された。他方、監査法人のリストラの動きも目立ってきた。確かに、そうした現象だけを見れば、由々しき事態と言わざるをえない。だが、本当に“公認会計士、冬の時代”なのだろうか。
結論から言おう。お金をかけ、時間を使って特別な勉強をしたりする必要はない。会計士試験に受かった方々全員、2万人の心構え一つで、道は開けると思う。これまでこのコラムで述べてきたことと重なる部分もあるが、あらためて会計士のみなさんに対して、私が一番言いたいことを述べたいと思う。
日本CFO協会による、公認会計士の事業会社への「研修出向制度」が軌道に乗ってきた。会計士に新たな活躍の場を提供するとともに、受け入れた企業からは「有資格者の実力を再認識した」といった、ポジティブな反応が返ってきている。出向した人たちの懸命の努力が、一般企業から高く評価された結果である。
私は出向予定者のキックオフミーティングに毎回呼ばれ、話をする。そんな関係で、「企業人」となった会計士から、手紙をもらうことが少なくない。彼らが例外なく書いてくることがある。「金児さんのお話の中で最も印象に残ったのは、『自分が偉い存在だと思ったら、企業ではやっていけない』という言葉です。それを肝に銘じて、頑張っています」という文言だ。
公認会計士試験は超のつく難関である。だから受かっただけで、肩で風を切って歩くような人もいる。だが、それは大きな間違いである。企業が欲しているのは、資格ではなく、あくまでも周囲と協調して成果をもたらす能力である。「私には資格があるから」と特別扱いを求めるようなタイプの人間ほど、企業にとって好ましくない人材はいない。逆の言い方をすれば、会計士試験に合格したほどの力の持ち主がそのプライドを捨て、謙虚に頑張ったなら、10年、15年すれば必ず頭角を現すはずだと、私は確信している。
もっと根本的な話をすれば、企業会計の80%は法律に則った「財務会計」で、利益を上げるための「経営会計」は残りの20%というのが世間のとおり相場なのだが、これがそもそもの間違い。会社等(会社・店・個人企業)の実態はまったく逆であることが、一般企業の経理・財務に携わってみれば、一目瞭然である。にもかかわらず、会計士が20%の部分の「監査」にこだわっていれば、供給過剰になるのも当然だ。欧米のように、会計士が監査以外のコンサルタントや、税務やM&A、ほか会社から必要とされる様々なフィールドに、どんどん進出すべきなのである。
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経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)顧問金児 昭
1936年生まれ。東京大学農学部卒業後、信越化学工業に入社。以来38年間、経理・財務部門の実務一筋。前金融監督庁(現金融庁)顧問や公認会計士試験委員などを歴任。現・日本CFO(経理・財務責任者)協会最高顧問。著書は2011年11月現在で、共著・編著・監修を含めて125冊。社交ダンス教師の資格も持つ。