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Accountant's magazine vol.6

-アカウンタンツマガジン-
2011年06月01日発行

会計プロフェッションによるコラム「Accountant's Opinion」

第6回「私が体験した「心の温かい経理処理」」

経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)
顧問金児 昭

前回、「30年ほど前、“粉飾2歩手前”の経理処理をした」と書いた。私が常々口にする「生きた会計」がどのようなものかを理解してもらうために、そのいきさつを記しておきたいと思う。

1978年、私が勤務していた信越化学工業の業績が悪化、無配転落の危機を迎えてしまった。当時の小田切新太郎社長は、2800人いた社員のうち300人の希望退職を募り、ほか300人を子会社・関連会社への出向などで人員を削減するという苦渋の決断を下す。しかし、そのためには、特別退職金15億2000万円を用意しなければならなかった。

特別退職金として費用に計上すれば、確実に赤字・無配となってしまう。当時の経理担当常務、経理部長、それに経理課長だった私の3人は社長に呼ばれ、こう言われた。
「何としてでも赤字は避けたい。15億円を費用ではなく、資産の前払費用にできないだろうか……」。

私たちは仰天した。「粉飾」の二文字が脳裏に全く浮かばなかったといえば、嘘になる。だが、社長からじかに告白されたピンチ。何か策はないかと一生懸命に調べるうち、井上久彌さんの著書『法人税の計算と理論』に「繰延資産」の記述が目に入った。「これだ!」と、私は直感した。

そこに書かれていた理屈はこうだ。特別退職金は新経営組織採用のために用いると解釈できる。その大項目は「繰延資産」、中項目は「開発費」、小項目は「新経営組織採用のための費用」とある。信越化学は2800人の「旧組織」から、新経営組織採用として2200人の「新組織」につくり変えるため15億円を支払うのだから、これを資産に計上したうえで、5年で償却する――。

「費用収益対応の原則」に照らせば、15億円を5年かけて償却するわけだから、1年当たりの費用は3億円。一方、「浮く人件費」は約30億円(600人×500万円/1人当たり年収)が収益となる。

この「金児私案」をもって、前回もお話しした担当会計士の土肥東一郎さん、石川義雄さんに提示した。妥協のない「純粋会計士」であるおふたりは飛び上がるほど驚き、「とても認められない」と言う。

しかし、私たちは決してあきらめなかった。朝9時から深夜までの理論闘争。そんな日々が2週間も続いただろうか。最後は、おふたりが当時の大蔵省の証券局にお伺いを立ててくれたのだと思う。そしてようやく、「日本初の経理処理」にOKが出た。

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Profile

経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁) 顧問 金児 昭

経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)顧問金児 昭

1936年生まれ。東京大学農学部卒業後、信越化学工業に入社。以来38年間、経理・財務部門の実務一筋。前金融監督庁(現金融庁)顧問や公認会計士試験委員などを歴任。現・日本CFO(経理・財務責任者)協会最高顧問。著書は2010年1月現在で、共著・編著・監修を含めて123冊。社交ダンス教師の資格も持つ。

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