大原大学院大学
会計研究科教授・博士八田 進二
[最終講義(@青山学院大学4号館2階420教室)リポート]
17年間勤めた青山学院大学を定年退職した八田進二教授。2018年1月27日(土)、青山キャンパスで行われた最終講義には500人を超える“聴衆”が“出席”した。本講義のダイジェストをお届けする。
修士論文のテーマに「重要性概念」の再検討を選んだ私の研究者としての原点には、常に自らの監査実務の体験や目の前の事例を通して浮かび上がる疑問を解き明かしたい、という探求心があった。例えば1980年代半ばに企業の内部統制という課題を取り上げたのも、会計や監査がどんなに頑張ろうとも、当事者である企業の認識が甘ければ意味がないのではないか、という気づきが端緒になった。まさか30年を経て法律にそれが明記され、自分が金融庁の審議会の内部統制部会長を拝命されるなど、ゆめゆめ思わなかったのだが。
私が青山学院大学に移籍した2001年の暮れ、エンロン事件が起こった。危機感を募らせた米国政府は、市場改革のメルクマールとして、企業改革法(SOX法)を制定する。条文を精読すると、その背後にある考え方=ガバナンスの重要性がよく理解できた。それ以来、健全な資本市場を構築するためには、「会計、監査、ガバナンスの三位一体改革」が不可欠であるという視座が、私の中に定まった。
「エンロン」は対岸の火事にとどまらず、我が国でも直近の東芝事件に至るまで、会計不正が続発している。企業不祥事だけではない。議員の「政治資金」「政務活動費」の不正も、新国立競技場建設や築地市場移転にかかわる杜撰な工事費の問題にしても、突き詰めれば呆れるほどの会計的視点の欠落が招いたものといっていい。では、“会計”とは何か? Accounting=会計というのが、そもそも誤訳である。それは、アカウンタビリティ、説明責任、報告責任が原義で“銭勘定”とは違う。私に訳せと言われたら、「説明理論」「報告学」とでもするだろう。説明のための素材が決算書であり、その真実性を確保するのが会計監査なのだ。そうした原点に戻る意義が、ますます大きくなっているように思う。
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大原大学院大学会計研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。青山学院大学経営学部教授、同大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、名誉教授に。2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授。日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員等を歴任し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。