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「第二期 第6回基調講演 女性専門職業人が判断を下す時の課題」
参議院議員・公認会計士・税理士
竹谷 とし子
藤沼塾レポート
GCA株式会社
代表取締役渡辺章博
米国ピート・マーウィック・ミッチェル(現KPMG)でM&Aのアドバイザリーをしていた私が、帰国してKPMGコーポレートファイナンスを設立したのは1994年だった。いずれ日本国内でも案件が増えるはずだという読みは当たって、事業は順調そのもの。今でこそ「M&Aサポート」は当たり前だが、当時ほとんど同業者はなく「国内のこの市場は自分がつくった」という自負が、私にはある。
ところが、例のエンロン事件で環境は一変する。監査先へのサービスが大幅に制限されてしまったのだ。独立したのは、顧問先に「これは、会社ではなく渡辺さんに頼んだ案件なのだから、最後まで面倒をみてほしい」と懇願されたのがきっかけだった。
そもそも渡米し、M&Aの仕事と出合ったのも偶然の産物だったのだが、そうなってみて、私は初めて会計のことがわかったように感じている。日本の現地法人の100%子会社を監査した時、米国人のレビューインパートナーが語った一言が、今も耳に残る。その会社は、親会社から業務委託料などの名目で「ミルク補給」を受けて、ようやく黒字という状態だった。決算書を見た彼は、即座に「これは収入ではない。資本取引だ」と指摘した。「その処理だと赤字になってしまう」と抗弁した私に返ってきた言葉が、「本当は、自分では立って歩けない赤字会社なのだろう」「アキ、この財務諸表を誰が使うのか、本当にわかっているのか?」だった。まさにサブスタンス・オーバー・フォーム(形式より実質)の神髄を見た思いがした。
日本の会計士試験に出てきた「真実性の原則」がいま一つピンとこなかった私が、その大事さを感覚的に理解した瞬間である。
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GCA株式会社 代表取締役渡辺章博
わたなべ・あきひろ/1980年、中央大学商学部在学中に公認会計士第二次試験に合格。82年、ピ-トマーウィック(現KPMG)のニューヨーク事務所 に入所。94年の帰国後、KPMGコーポレートファイナンス代表に就任。2002年、現GCAを個人創業し、04年に法人化。06年、東証マザーズ上場。 12年、東証1部に市場変更。著書に『M&Aのグローバル実務 [第2版]』(中央経済社)など。