青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
アベノミクスの成長戦略では、日本企業の“稼ぐ力”回復に向けて、コーポレートガバナンス強化が第一の柱に掲げられている。その矢先、ガバナンス優等生といわれた東芝に不適切会計問題が起こったのは皮肉な話だ。ところでみなさんは、「コーポレートガバナンス」という言葉に、どんなイメージをお持ちだろうか?
「ガバナンス改革元年」などと強調されると、かえって組織の締め付けがきつくなるのではないか――。そんな議論がよくある。「ガバナンス」イコール「コンプライアンス」あるいは「アカウンタビリティ」という捉え方が、幅を利かしているからだ。
動詞のgovernには“治める”のほかに“方向づける”という意味がある。敵の船を狙う魚雷の方向舵はgovernorだ。進路を過つことなく目標にヒットさせるためには、必要不可欠のパーツである。
「コーポレートガバナンス」。日本語にすると“企業統治”の本来の意味も、まさにそこにある。企業の成長、発展のためには、取締役会を中心に、会社が何を目指すのか、そのためにはどのような戦略が必要なのかを総合的に判断し、方向付けていく必要がある。つまり、企業の持続的発展と繁栄に結び付かないガバナンス議論などあり得ないということ
ところが、敵艦に照準を合わせる前に足元を見てみたら、そこには幾多の不備や課題があった。不祥事が発覚することもある。そこで、まずは内部を固めろ、コンプライアンスだ、と制度づくりや形の部分ばかりが強調され、真の目的が忘れ去られてしまった。無論、コンプライアンスやアカウンタビリティは重要だ。しかし、それはあくまでも健全なガバナンスの一部なのである
こうなった責任の一端は、ガバナンスをコンプライアンスと同義語的に使って規制強化の方向を強調してきた専門家にもあるだろう。ただ、ここにきて風向きの変化も感じる。先述のとおり、安倍内閣の新成長戦略を示した「『日本再興戦略』改訂2014」には、「攻めのコーポレートガバナンス」がうたわれているが、それこそ企業統治の真の理解に基づく政策方針として、高く評価していいと思う。あとは実践だ。
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青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会委員、金融庁「会計監査の在り方に関する懇談会」メンバーを兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。