青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
今日、世間の耳目を集める企業や組織の不正の大半が、会計不正と同様に、情報不正や虚偽記載といった“開示不正”であるという共通点がある。
世の中でこうした不正の発見や抑制に対して最も長けているのは、誰あろう会計士なのである。複眼的な視点での会計的発想法、倫理性の高い会計士のマインドをもってすれば、同種の問題のかなりの部分は防げるのではないか、と私は思っている。ただし、今の日本の会計士の多くが、そうしたマインドや能力を備えているかといえば、残念ながらそうなってはいないのも、また事実だ。
2013年3月に、金融庁の企業会計審議会が「監査における不正リスク対応基準」を新設した。私も臨時委員として設定に加わっているが、この基準の中で強調されたのが、「職業的専門家としての懐疑心」である。背景には、「近時、金融商品取引法上のディスクロージャーをめぐり、不正による有価証券報告書の虚偽記載等の不適切な事例が相次いでいる」という現実がある。こうした不正は、初めから他者(この場合は監査人)を欺くことが目的だから、始末が悪い。そのため、誤解や誤謬による虚偽記載よりも、数段、発見が難しくなるのである。
会計監査において“懐疑心”の重要性が世界的に強く叫ばれるようになったのは、以前にこのコーナーでも触れた21世紀初頭の米国のエンロン事件がきっかけだ。ともあれ、純粋にメンタリティの問題を、わざわざ監査基準にまで規定している意味を、会計士はもっと噛みしめる必要があるのではないか。
会社の監査役の場合にも、まったく同様のことが当てはまる。「経営者の言うことが本当なのか」、それが「全社的に浸透して理解されているのか」、というスタンスは不可欠である。それは、自分自身、納得した結論に行き着くことで、明日から枕を高くして眠れるか……ということ。ところが、実際には、「期限が来たから、少しやり残しがあるけれど、まあ大丈夫だろう」という感じで仕事を終える人が、少なからずいるのだ。
監査業務遂行上の失敗が明らかになっても、会計士が法的責任を問われることはなかった20世紀と今とは、状況がまったく異なっている。しかし、多くの会計士は危機意識が希薄なのではないか。
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青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・博士八田 進二
慶應義塾大学大学院商学研究科 博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。2005年より現職。現在、日本内部統制研究学会会長、金融庁企業会計審議会臨時委員(監査部会)を兼務し、職業倫理、内部統制、ガバナンスなどの研究分野で活躍。
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