経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)
顧問金児 昭
私の印象に残るCFOの8人目は、元・花王の取締役執行役員・会計財務部門統括の三田慎一氏である。三田氏とは『週刊経営財務』(税務研究会)の対談でお会いした。2008年の初旬だから今から6年ほど前のことになるが、その経理・財務人材に対する考え方、ユニークな教育研修システムのお話は忘れられない。
「経理・財務部門のスタッフとして、どのような人材を求めていますか?」という私の問いに対して、三田氏はおおむね次のように答えられた。
「経理を取り巻く環境も,業界を取り巻く環境も変わってきているなかで、待ちの姿勢ではなく『自分はこうやって会社の仕組みを変えていきます』という提案のできるような気概を持った人材が、必要だと思います」
対談が行われた08年といえば、その4月から内部統制報告制度や四半期報告制度が始まるなど、経理・財務部門にとっても節目の年。そうした変化も見据えてのご発言だったと思うが、経理・財務パースンとして最も必要な考え方が、そこに集約されていた。三田氏の言うように、「経理だからといって受け身ではなく、一緒に会社をよくしていき、企業価値を高めていくという点では、経理も営業も同じ」なのである。
そんな経理・財務パースンを育てるための、同社独自の「アカウンティング・スクール」について述べておこう。スクールを開設したのは、今から26年ほど前。経理や簿記のことをあまり知らずに経理・財務部門に配属される人のために、「せめて日商簿記2級くらいは取得できるようにしよう」と考えたのが発端だったそうだ。ただし、経理のメンバーだけを対象にしていたのではもったいないと、全社的に参加者を募って始めたのが、まずユニークな点である。
スクールは、1次と2次の研修に分かれていて、1次では社外の講師を招き、日商簿記2級合格を目標に合宿形式で学ぶ。2次では、同社の経理の仕組みや、あるいは法務の知識などについて研修を行っている。今度は管理会計、税務、法務などの担当社員が講師になる。
さっきも述べたように、スクールには経理・財務以外のいろいろな部門の人が参加する。年代層も20代から40代まで、幅広いそうだ。経理・財務の知識だけでなく、「そもそもうちの経理は何をやっているのか」を肌で感じた人たちが営業や研究などの現場に増えることは、それだけで非常に意義のあること。
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経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)顧問金児 昭
1936年生まれ。東京大学農学部卒業後、信越化学工業に入社。以来38年間、経理・財務部門の実務一筋。前金融監督庁(現金融庁)顧問や公認会計士試験委員などを歴任。現・日本CFO(経理・財務責任者)協会最高顧問。著書は2013年8月現在で、共著・編著・監修を含めて143冊。社交ダンス教師の資格も持つ。
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