経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)
顧問金児 昭
昨年(2011年)の夏、あまりの猛暑に耐えかねてタクシーに乗ると、運転手さんがしみじみと話しかけてきた。
「不景気で、乗ってくれるお客さんの数が半分になりました。給料も3分の1です。でも家に帰れば、女房がご飯をつくってくれ、お風呂にも入れます。布団で寝られます。幸せだと思わなければいけませんよね」
私は驚いた。ほんの数日前に、別のタクシーの運転手さんからほとんど同じ言葉を聞いて、「まったくそのとおりだ」と思ったばかりだったからだ。
2011年は、本当にいろいろなことがあった。日本で起きたことも世界の出来事も、あまりにも「大き」すぎて、私はいまだに語る言葉を持たない。納得できる解説や展望にもお目にかかれていない。ただ、驚き、悲しみ、怒りなどの感情が交錯したあとで、多くの日本人一人ひとりが「絆」「優しさ」「温かさ」といった、人間が大切にすべき根源的な部分に改めて気づいたと思う。
大変だが、「当たり前」を取り戻したい。「当たり前」の日常に感謝し、「当たり前」の仕事をコツコツ続ければ、ぜいたくはできないかもしれないが生きていけるのだから。
会社等(会社・店・個人企業)は何のためにあるのか?1円でもいいから利益を挙げ、40銭の税金を納め、人を雇用する。それが「当たり前」の会社等の姿である。その会社等を、会計監査を通じて支え、時には自ら会社等の人となって「経理・財務」の専門知識を生かしながら、みんなと一緒になって汗水たらす。それが会計士の方々の仕事だと思う。
年が改まって最初の原稿なので、「2012年に会計士が心すべきこと」というテーマが編集部からのリクエストだったのだが、今、何を語っても自分の言葉に力不足を感じる。極端な話、ヨーロッパの危機がさらに拡大して世界に波及し、リーマンショックを超えるような事態になったら、世界の会計基準も見直すことになってしまう。
昨年は、会社等の会計がらみの事件も相次いだ。肩身の狭い思いをしている会計士や会社等の人も少なくないのではないか。だが、99.99%の人々は使命感を持ってまじめに働いている。そういう人たちに「心すべきこと」をあえて述べるとすれば、このコラムでも何回か述べてきたように、会計士としてより以前に、社会人として有用な人材になってほしいということだ。
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経済・金融・経営評論家/前金融監督庁(現金融庁)顧問金児 昭
1936年生まれ。東京大学農学部卒業後、信越化学工業に入社。以来38年間、経理・財務部門の実務一筋。前金融監督庁(現金融庁)顧問や公認会計士試験委員などを歴任。現・日本CFO(経理・財務責任者)協会最高顧問。著書は2012年1月現在で、共著・編著・監修を含めて128冊。社交ダンス教師の資格も持つ。
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